第28話・魔王様、獣人を見守る。
「――いくよ」
最初に動いたのは獣人の子供達のようで、7人それぞれ昨日キースが渡した武器を構えていて、駆け出していく。
ブヒィィィィィッ
グリーン・ボアも雄たけびと共に突進し、近づく子供達を突き飛ばそうとする。
昨日の模擬戦同様、グリーン・ボアの突進をうまく避けることができていて、しっかり死角を捉えている。
突進を避けるのはいい判断で、グリーン・ボアの唯一の攻撃手段だけに威力が高く、体格のいい男ですら吹っ飛ばすほどだ。
受け止めようものなら、大怪我をしかねない。
ブヒィィィィィッ
突進が避けられたことで、方向を変えてまた突進をするグリーン・ボア。
「よっ!」
一直線の突進だけに避けるのは容易い。
だけど、動き回る故に、的(まと)を絞りにくく攻撃ができない。
「隙がない・・・」
突進を避けても繰り返し突進がくるので、避けるだけで精一杯になってしまう。
「敵ばかり見るな、仲間を見ろ」
キースが指示を出したように、そこで必要になるのが連携である。
個々で動いていては、攻撃をする隙を見つけるのが難しい。
連携をとれば、誰か1人がグリーン・ボアのターゲットになり、その間に他の人が攻撃に転じることができる。
キースはそれを自ら気付いてほしくて、そう指示を出した。
「・・・僕がターゲットを取るから、皆は攻撃をして!」
するとキースの意図に気づいたのは剣を持つリーダーの男の子だった。
そう言うと、あえてグリーン・ボアの的(まと)になる位置に1人で立つことで、そこに狙いを集中させる。
ブヒィィィィィッ
グリーン・ボアは狙い通りに男の子に向けて突進してくる。
男の子が突進を回避すると、すぐに攻撃の指示を出した。
「今だ!」
「やぁっ!」
指示通り、その男の子以外の子供達はあらかじめ攻撃準備をしていたため、見事に突進の後の隙をついて攻撃できた。
剣が肉体を切り裂き、弓と槍で急所を貫いている。
ブヒィィィィィッ・・・
グリーン・ボアは堪らず雄叫びを上げて、倒れるように絶命した。
「やった!」
見事な連携で、狩猟を行なえたことに子供達は喜んでいた。
「よくやったな」
「ありがとうございます」
キースがアドバイスをしたとはいえ、あの短時間で初めての連携を成功させるとは思っていなかった。
実は知らなかっただけで、元々子供達の中に信頼関係が強くあり、連携が取れる素質があったと考えられる。
「すごいですね、私も頑張らないと・・・」
それを見守っていたティアも感化されるように気合を入れていた。
次はティアの番であり、勇者としての素質が試される。
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