第10話・魔王様、宿を借りる。
それからしばらくして宴が一段落着いたところでお開きとなった。
「あなた達、こんなところにいたのかい!」
宴から人々が帰る道中、昼間に屋台で話したおばさんがキース達の前を偶然通りかかった。
様子からして勇者の演説を聞いていたのだろう。
「・・・キース様・・・誰?・・・」
このおばさんと話したのはシャルを召喚する前であり、シャルには面識がない。
「あら!また可愛らしい子が増えているわね。
――私はローナ、宿屋と串焼きの屋台を経営しているおばさんよ」
「・・・串焼き!・・・」
その言葉がシャルの目をキラキラと輝かせる。
おばさんこと――【ローナ・リエ】がシャルの好物であるグリーン・ボアの串焼きを作った人だと気づいたようだ。
「あら、串焼きを知っているのかい?
あ、そうか。あれだけたくさん串焼きを買ったのは、この子のためだったのね。
・・・獣人はたくさん食べるというし」
ローナは昼間にキースが大量に買った意味を理解したようだ。
――実際あの時はシャルのような使い魔が召喚できるとは思っていなかった。
ただ結果的にはその通りになったので、その解釈で正しいともいえる。
「・・・串焼き・・・まだある?・・・」
さっそく串焼きが食べたくなったようで、シャルがローナに注文をしようとしている。
「・・・ごめんね、昼間の内に全部売り切れちゃって、もうやってないのよ。
また明日になったらお肉が入荷すると思うわ」
「・・・むぅ・・・残念・・・」
もう屋台をやってなくて、串焼きが食べれないとわかると、シャルはシュンと落ち込んでしまった。
「・・・あ、そうだ!あなた達、今日泊まる宿は決まっているのかい?
まだ決まってないなら、うちの宿屋を利用してくれたら、串焼きはないけど美味しい食事は用意できるわよ」
シャルのその様子を見かねてか、ローナがそんな提案をしてきたのだ。
「まだ決まってないな」
キース達はもちろん宿の手配などはしていない。
――そもそも魔界には朝や昼、夜などといった時間の概念はなく、どんな時でも常に活動している。
人間のように体を休めるといった行動が必要ないのだ。
「・・・串焼きよりも・・・美味しい?・・・」
「ん~、串焼きも絶品だけど、宿屋で出す料理も負けてないぐらいの美味しさだよ」
「・・・なら、行く!――キース様、いい?・・・」
シャルはローナの言う宿屋の食事が気になるようで乗り気だった。
確かに人間のように休む必要がないとはいえ、ここは人間界であり人が活動していない中で動き回っていても意味がないだろう。
「じゃあ、利用させてもらうよ」
「・・・やった!・・・」
「――そうと決まれば着いといで!」
キースが宿屋を利用すると決めるとローナの案内の元、みんなで移動することになった。
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