第9話・魔王様、勇者と出会う。

街の騒ぎが拡大する中、冒険者ギルドより勇者捜索の依頼が出された。



勇者と共にいるのはキラー・タイガーということで、腕の立つ冒険者を募っている。



「勇者捜索にご協力ください」



しかし、ギルド職員がわざわざお願いしてまわっているように、キラー・タイガーに対抗できる冒険者は少なく、編成に難航している。



本来なら、時期的にこの辺一帯は平和であり、強い魔物はいない。



そのため、ほとんどの強い冒険者は他の街や国に出向いているのもある。



――冒険者が集まらず、捜索隊が派遣できないまま刻々と時間だけが過ぎていく。



そんな時にまた新たな知らせが届いた。



なんと勇者が無事王都に帰還したという。



それもキラー・タイガーを討ち取った証である素材を携えて。



知らせは瞬く間に人々に伝わり、混乱する騒ぎから一転して、賑わうような騒ぎへと発展した。



――気付くとその夜、街総出で宴が開催された。



もちろん、主役は勇者。



勇者のために開催された宴だけに、勇者が姿を見せないわけにもいかず、壇上で演説を行なっている。



ボロボロだった鎧や剣は新調されていて、宴に合うよう煌びやかな姿。



容姿はまだ少し幼いものの、白に近い銀色の長い髪に青い瞳で、純白の鎧と剣が似合う美少女。



「――あれが今の勇者ですか」



そんな賑わいを見せている街の片隅で、魔王であるキース達が勇者の姿を見守る。



初めて勇者を見た、配下のベルがそう言葉を零した。



「そうだ。さすが勇者だけに少し能力は高い。

まだまだ弱くて未熟だが成長の余地はあるな」



キースもまた自身の目で見るのは初めてであり、改めて観察している。



その瞳には魔法陣が展開されており、魔法を使っている。



『魔眼(まがん)』と呼ばれるその魔法は、見たものの魔力量、身体能力、潜在能力全てを見ることができる。



故に勇者の能力を実際に見ての発言だった。



「でも・・・キラー・タイガーには・・・まだ勝てない・・・」



使い魔であるシャルもまた五感で勇者の能力を感知しているようだ。



――この宴が開催されたのは2つ理由がある。



勇者が無事であったことともう一つ――キラー・タイガーを討伐したことにある。



キラー・タイガー討伐はキース達――正確にはシャル1人が行なったもの。



だが噂では勇者1人で討伐したことになっている。



勇者自身はそれを否定して、「何者かの手により救われた」と主張している。



しかし、“得体も知れない者に救われた”という噂より、“勇者1人で討伐した”という噂の方が話題に大きく、噂はすり替わり人々に伝わっているのだ。



誰も成しえなかったことを行なったというのがこの宴の理由でもある。



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