第4話 豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏、蝉に……?

「……破ったというより、音をはね返したというのが正しい。現に、ほら」


 男子がセミの魔王の後方を指差すと、そこでは蝉の大群がピクピクと羽を震わせて地に倒れていた。すでに気力が残っておらず、鳴くこともできないようだ。


「……自分で発動した魔法にやられるなんて思ってもみなかったでしょ?」


「貴様よくも!! 一体何をした!」


 蝉の魔王は怒りを露わにした。


 第三系統魔法? 音をはね返す? 彼らは一体何をしたの?


 早速理解が追いつかない私。それでもとりあえず彼らの戦いを見守り、逃げる機会を伺う。


「……第一系統魔法<反転>。展開・発動された魔法陣の発動方向を文字通りひっくり返した。ここまで説明すればさすがにわかるよね?」


 ハッと何か思い当たった魔王。


「第一系統魔法は世界創造時代に開発された複雑な魔法。それを解読かつ発動できるほどの逸材がこんなところにいようとは」


 ごめん。全くわからない。そもそも魔法って本当にあったんですねってところから驚いてもいいですか?


 それとこの男子は魔王の目から見てもすごい人だと。そーなんですかーすごいですねー(棒読み)。


「……ほら、そこで黙って見てないで責任取って」


 男子が私に呼びかける。それにしても責任を取れって言われたってどうしろっていうの?


「……ただ俺に誤った時と同じ行動を取ればいいから」


 ってことはあの魔王に名刺を渡せってこと!? そんなことをセミにやっても無駄でしょ? 豚に真珠、猫に小判、馬に念仏、蝉に名刺でしょ⁉


 そんなことより早く逃げましょうよ!


「一体何を考えているんですか?」


「……やればわかる。攻撃は俺がはね返すから迷わず進んで」


 さっき「質問があるなら聞け」的なこと言ってたのに教えてくれないんだー。まぁ、交戦中だからしょうがないとは思いますけど。


 正直、この人だけでなんとかなるんじゃないかと思っている。私はいてもいなくてもいいモブ的存在。そんなモブがわざわざ戦いに横槍を入れるのだ。それなら別にやらなくてもいいんじゃないか。


 ……でも彼は私に「責任を取れ」と言った。そして方法まで教えてくれた。ここまでお膳立てしてくれたのなら……やるしかない。


 それに彼は多分、私の想像以上にすごい才能に恵まれた人だと思う。私がヘマしても、きっとなんとかしてくれる。


 彼の強さ、優しさが私の背中を押した。




 分かりましたよー。何も考えないで彼の言うことに従いますよー。


 私はカバンからお父さんの名刺を取り出して、まっすぐセミの魔王を見た。相変わらずデカい怪物。夢に出てくるくらいトラウマになりそうだ。


「<猛声>」「……<反転>」


「グアアアァァァ!!」


「……どう? 自分の声の感想は?」


 両者一歩も動かず声だけで戦っていた。何も知らない私からしてみれば、ただ巨大セミとマント姿の少年が意味不明な会話をしているようにしかみえない。


 私は今のうちに蝉の魔王のもとに走った。


「あの!」


 もともと私なんて眼中になかったのか、私に声をかけられると、セミの魔王は「今忙しいんだよ」とでも言うように呆れられたように視線をやった。


「つまらない人間は去れ!!」


「あ、え、えっと」


 うわぁ、こわー。マジでこわー。


 相手はこの男子にバカにされて興奮してるし。私は恐怖でまともな言葉もでてこない。


 もう私何やってんだ。早く帰りたい。……でもここまで来たらやるしかない(こじつけ)。


 私は頭を深く下げ、名刺を差し出した。


「ごめんなさい! あなたの仲間のセミを罠にかけたのは私です! 何かあったらここにお願いします!」


 まるで命乞いしているようだ。魔王の目の前で敵である私が頭を下げるなんてことは首を切ってくださいと言っているようなもの。さて、相手の反応は……。


「なっ! まさか……“祓い屋”だと⁉」


 名刺にはこう書かれていた。


 祓い屋“明日あけび”リーダー・明日堅一 

魔物討伐ならこちらまで(電話番号)○○―○○○○


「よう、魔王。よくもウチの娘に手出したな」


 突如、空から超筋肉質の高身長の中年男性が飛んできた。大地を震わせるようなド派手な着地を見せると、その男は2メール級の斧を担いでニヤリと笑った。


「お父さん⁉」

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