第23話

 


 拮抗状態を崩す一撃を先に放つことができたのは竜だった。


 竜が大きく身を回して見舞った尻尾による攻撃がグレンの身体をしっかりと捉えたのだ。


 竜は確かな感触に歓喜し、その喜びを表すように尻尾を勢いよく振りぬいた。


 グレンの身体が宙を舞う。

 竜の一撃がどれだけ強烈なものであるかを示すように速くまっすぐに飛んだグレンの身体は、周囲のものを壊しながら移動していく。


 普通ならこれで決着だ。


 しかし、竜は油断をしなかった。


 竜はグレンがいるだろう方向を見据えたまま地上に身体を下ろして身構える。

 顎を開き、叫ぶような声をあげる。


 ――その瞬間に、空の色が青から黒へと一変した。


 発生源は竜の前方、開いた顎の先にある光弾だ。


 空の色を変えるほどに光を放つその弾は力の塊だ。

 今この瞬間、この場に留まっているだけでも、篭められた力の余波として放射される熱が周囲を溶かしている。許容量を超える存在の威圧に空間が悲鳴をあげるように軋んで不快な音を響かせる。


 ――竜の吐息。


 竜という種族がもつ最も強い攻撃方法であるそれは、個体によっては国すら焼き払うことができる代物である。平均的な個体の放つものであっても、ヒトひとりを殺すには過剰すぎる選択肢だ。


 グレンはまだ瓦礫の中から立ち上がる気配を見せておらず、このまま牙か爪による一撃を追加するだけでも勝てるかもしれないこの状況で使うような手段ではない。


 けれどもこの竜は、この一撃で決着させることを選択した。

 この選択こそが、今の自身にとって最善なのだと確信していたからだ。


 たとえ他の食糧が余波に巻き込まれて消え失せようとも、この敵を滅ぼすには全力を出さねばならないのだと、ここまでの激突を経てそう学んだがゆえの行動だった。


 ――音が止まる。


 それは束ねられた力が過不足なく制御されたことを示す合図だ。


 一拍の無音を挟み、空気が膨らんで弾けるような音が響く。


 決着の一撃――黒の光弾が目標に向けて射出された音だった。


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