第24話

  


 竜の前方にあった黒い光が目標に向かって最短距離をまっすぐに飛んでいく。


 その直前に、もうひとつの動きがあった。


 それは竜によって地面に叩き伏せられたグレンの、竜の吐息が発射されたことに対する反応だ。


 破壊の余波で積み上がった瓦礫の上、粉塵の中で、グレンは竜の行動選択に感謝していた。


 ……命を懸けた甲斐はあったな!


 互いに決め手が欠けて拮抗している状態が続いた後にわずかな隙が見出せたのなら、一撃で決めたいという欲が出るものだ。


 実力伯仲であればなおのこと、その傾向は強く出る。


 ……そう思わせるために時間をかけた。


 実際のところを言えば、グレンが何の支障もなく使える手札で竜を倒しきることは非常に難しかった。

 グレンが集団で行動する冒険者として持っていた役割は囮や盾であって、単純に何かを上からねじ伏せるだけの力を持ち合わせていなかったからだ。

 

 決め手に欠けた状態で戦闘が長引けば、負けるのは体力面で劣るグレンのほうである。


 しかし、グレンも自分だけで強敵を倒さなければならない場面を何度も経験した猛者だ。

 条件さえ整えれば竜すら倒しうる一手はしっかりと持っていた。


 ……相手の攻撃に耐えて、自分の力を上乗せして返す。単純な技だ。


 それは、グレンがこの戦闘が始まってからずっと使っている技でもあった。

 ただ、これまでの激突において放った一撃には相手の攻撃の威力もこちらの準備も足りなかったのだ。


 ……しかし、今回は違う。


 互いに時間をかけて放つ最大火力同士の激突ならば、必ず決着はつくことだろう。


 ――黒の光弾が迫ってくる。


「さあ、最後の賭けだ!」


 グレンはその事実を認めて笑みを浮かべながら、自分から光弾を迎えにいくように走り出した。

 

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