第17話
再び竜が動き出す様子を目の前にして、ビオは思う。
――あれが現れてから何日が経ったのだろうか、と。
ビオの頭を過ぎった疑問符には、優秀な記憶力が答えを寄越してきた。
――まだ二日も経っていないだろう、と。
だから、ビオは心底からこう思った。
……こんなに時間が経つのが長く感じるのは初めてよ。
昼も夜もなく、竜の気まぐれに付き合わされる形で働き続けているのだから、ビオでなくとも時間が経つのが遅いと感じていたことに違いない。
なにせ、この現場では命がとてつもなく軽いのだ。
竜の力は圧倒的で。
ビオを含めた人員全てが攻撃を仕掛けても鬱陶しがられるだけで歯が立たず。
相手の攻撃は複数人が全力で防いだって死ぬ人間が必ず出る。
――自分はまだ死んでいないが、いつ死ぬのかもわからない。
そんな状況で正気を保って動いていられるだけ、ビオは優秀なほうだろう。
この抵抗に意味はあるのかと諦めて、自棄になって死ぬ者も多かったからだ。
ビオにも自ら命を投げ出すような選択をした彼ら・彼女らの気持ちはよく理解できた。
しかし、ビオは決して後を追うようなことはしなかった。
なぜならば、
……抵抗するだけの価値はある。意味はある。
ビオは強くそう信じていたからだ。
ただ、その確信は耐えていれば助けが来るだろうという予想や期待によるものではなかった。
……いやまぁ、そう思っていないわけではないけれどね。
ビオを含めて現場にいる人間が、命をなげうってまでささやかな抵抗を続けているのにはいくつかの理由があって。
その理由のうち、最も大きなものは、竜が出現した後からすぐによその街に助けを求めていて、その結果が返ってくるまでの時間を稼ぐ必要があったからに違いなかったけれど。
……それだけじゃないのよ。
誰かが注意をひきつければ、その分だけ犠牲になったかもしれない誰かを救える。
……死にたくはないし、死ぬつもりもないけれど。
どうせ死ぬなら、胸を張って誇れる何かが欲しいものだ。
……それが誰かを守るためだったというのなら。
地獄の沙汰だって多少はマシな結果になることだろうと、そう信じている。
ゆえに。
「あいつの腹ごなしはもう終わったらしい」
「短い休憩時間だったなぁ。そうは思わねえか?」
「休めただけマシだろうが。早く次に備えろ!」
「わかってるよ。
――おいお前ら、死ぬつもりでいるやつはいないよなぁ!?」
次々に周囲からあがる声に、
「当然でしょうが!」
ビオも声をはりあげてそう応じ、動き始めた竜に向かって走り出した。
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