第12話
「それじゃあ、話を聞かせてもらえるかしら。
まずは、あなたがどんな依頼を受けてこの街にまでやって来たのかを知りたいものね」
グレンはビオの問いかけに、少し考えるような間を置いた後に、確かめるような声音でこう言った。
「……中央で依頼を受けてこの街に来たことまでは話していたな」
ビオは首肯を返してから話を繋げる。
「珍しいこともあるものよね。それで、肝心要の内容はどんなものなの?」
ビオの更なる問いかけに、グレンは何でもないことを話すような口ぶりで応じた。
「何かを倒して来い。そして、もしもそれができなければ、可能な限りの情報を持って帰って来い。
ただそれだけの単純な依頼だ。
――よくある話だろう?」
ビオはグレンの言葉を聞いて、困惑とも苛立ちともつかない形に表情を歪ませながら、しぼりだすような声音で応じた。
「……概要としてまとめれば、そうなる話は確かによくあるけど」
ビオがそう言いながらグレンに向けた視線には、話の先を催促させようとするような、鋭く強い、力のこもったものだった。
グレンはまぁ落ち着けと言うように、片方の掌を自身とビオの間についたてのように立ててから話の続きを口にし始めた。
「そう怖い目で見ないでくれ。俺が理解できている範囲の話はしっかりと話すとも。
……まぁ、それでも先ほどより少し情報が増える程度であって、本質的には大差ないんだがね。
あくまで依頼をもってきたやつが言っている話では、だが。
そう遠くない内に、この街に何かがやって来るらしい。
その説明のときに相手が襲撃という単語を使っていたから、その何かは脅威となり得る敵性物体ということになるのだろうと、俺が判断しているって話さ」
ただ、グレンが付け足した説明の内容があまりにも信じられない内容だったから。
ビオは何か悪い冗談を聞かされたような気分になって、鼻で笑いながら問い返した。
「……本気で言ってるわけじゃないのよね?」
グレンはビオの問いかけに即答した。
「大真面目さ」
グレンが寄越してきた即座の肯定に、ビオは面食らって戸惑った。
冒険には命の危険が常に付きまとうものだ。
特に、それが何かを倒すだとかいう内容であれば尚更である。
だからこそ、依頼を受けるときに必要な情報が揃っているかどうかは、引き受けるか否かを判断する重要な情報となるのだ。
しかし、彼が受けた依頼にはそれらが全く無かったと言っているわけで、ビオならずとも、真っ当な神経と判断力を持ち合わせた人間なら戸惑って当然のことだった。
ビオは生じた戸惑いから完全に復帰できずにいたものの、それでも会話を続けるべく、思ったことを口にした。
「……正気の沙汰とはとても思えない経緯ね。
中央にいる冒険者は、全員そんな感じで生きてるの?」
「まさか。俺がそんな依頼でさえ断れない状況になっていただけだよ」
グレンはビオの皮肉めいた言葉に気を悪くした様子もなく、自嘲するような声音でそう応じるだけだった。
ビオはグレンの態度にますます困惑を深めてしまって、二の句を継げなくなった。
そうして降りた居心地の悪い沈黙は、店員が注文した料理を持ってくるまで続いていた。
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