第11話


 二人が案内された席は、密談に相応しいような個室だった。


 席に案内されたグレンは席につく前にお品書きをちらりと一瞥してから、懐から取り出した貨幣を店員に握らせて言った。


「それで可能な限りの上等な酒と食事を提供してくれ」


 店員は訝しげな表情で握らされた貨幣の額を確認した後で、目を見開いて驚いてみせると、畏まった態度で深く頭を下げてから立ち去った。


 先に席について一連のやり取りを見ていたビオは、自分の対面に座ろうとするグレンに向かって問いかけた。


「私がお金を出してあげる必要はなさそうね?」

「際限なくたかられては流石に厳しいですが、多少ご馳走するくらいの余裕はありますよ」


 グレンの回答に、ビオはぴゅうと口笛を吹いて応じて。


「……ところで、その口調疲れない?

 さっきみたいな口調でも、私は全然気にしないけれど」


 グレンはどうするか迷うような間を挟んでから、吐息をひとつ吐きながら言った。


「それじゃあそのお言葉に甘えるとしよう。俺も堅苦しい口調は苦手でね」


 そしてその言葉通りに、彼の口調は少し崩れ、その口調に合わせるように姿勢を崩して楽な姿勢で椅子に座りなおした。


 ただし、顔を覆う仮面だけはつけたままだった。


 ……どうやって食事をするつもりなのかしら。


 そんな彼の様子を見ながら、ビオは呑気にそんなことを考えていたが、その内わかろうだろうと思考を切り替えていって、思考の熱を吐息と一緒に吐き出してからわずかにそれていた視線をグレンに戻した。


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