とある『日付』と格闘するひとりの男性の、長い葛藤と覚悟の物語。
ワンアイデアというかワンシーンを鋭く磨いたような、日常の小さな事件にクローズアップした掌編です。内容(というか題材)に加えて、約3,000文字という分量の短さもあり、この先はどうやってもネタバレになってしまいますがご容赦ください。冒頭ですぐに明らかになることではあるのですけれど、でもそこも含めてこの作品の魅力だと思いますので。
笑いました。紹介文(あらすじ)のなにやら深刻そうな雰囲気、日付って一体なんのことかと思ったらまさかそれとは! あるいは勘のいい人ならうっすら予想できたりするのかもしれませんけれど、自分は完全に想定外でした。やられたというかなんというか、タイトルの意味が早速わかってしまう瞬間。
そして基本的に半分以上はこのタイトル通りの内容、つまり主人公のジリジリした葛藤の物語なのですけれど、特筆すべきはまさにその主人公です。人物造形が面白い、というか、かわいい。なんでしょうかこの溢れ出るポンコツっぷりは……。
文章自体は三人称体、いわゆる神の視座で書かれたお話で、主人公についてもちょっと引いたカメラで観察している感覚なのですけれど、でもこの人がとにかくもう……なかなか稀有なキャラクターというか、特に激しかったり突き抜けたりしている何かがあるわけでもないのに、眺めているだけで笑いが湧いてくるって初めてです。セリフの三点の多さと、あと自分に言い聞かせるみたいな独り言、というか同じこと何遍も言ってるところ。そして言ってるうちにだんだん「イケる」気がしちゃってるところ。ダメだこいつ……早くなんとかしないと……。
たぶん「放って置けない人」ってこういう人のことをいうんだろうなと、そんな感想をでもまさかというか、そのまま肯定するかのような後半の展開。放って置けない人を放って置けない人の登場。その彼がまたなんというか、あまりにも気が効くというか気遣いが完璧というか、溢れ出る愛を感じました。おおよそアガペーですけどでも解釈は自由、十分エロースでもイケる感じ。
というのはまあ冗談としても、しかしなんでしょうかこのほのぼの空間。最後までポンコツな主人公と、どう見てもその扱いに慣れきった理解のある彼。微笑ましい光景がお話の筋にうまくマッチした、でも突然の『飯テロ』が凶悪極まる脱力系コメディでした。主人公がおんなじこと二回繰り返すのが好きです。またそれがいわゆる〝天丼〟になっている(でも実は繰り返しの意味が微妙に異なる)のも。