第11話 一緒に買い物
葵が帰った後、俺は掃除を始めた。普段使っていない部屋も週に一回は掃除をする事にしている。
掃除をしていると、スマホが鳴る。
「……何か用か、篠崎?」
『あのね、榊原君……今日も榊原君の家に言って良いかな? ほら、明日からは学校だから……ワンちゃんと遊べないし』
篠崎は遠慮がちに言う。今の時間は十一時……遊びに来るなら、もっと早く電話すれば良いようなものだが。昨日は遅くまでバイトがあると俺が言っておいたから、篠崎なりに気を使ったのだろう。
「ああ、別に構わないけど……でも悪いが、来るのは三時以降にしてくれないか? これから少し、買い物に行きたいんだ」
『……買い物?』
「ああ、食料品とか日用品とか。土日にしか買い物に行けないからな」
『……そうだよね、ごめん。榊原君は忙しいよね。だったら……』
「いや、買い物にそこまで時間が掛からないから、うちに来ること自体は構わない。それに、こっちも用があるから、ちょうど良かったよ」
『え……榊原君が私に用事?』
篠崎の声が明るくなる。それだけでちょっと嬉しくなる俺は、変なのか?
「いや、俺じゃなくて。昨日の事で葵が……昨日会った秋山葵が、篠崎に謝りたいって言ってるんだよ」
『ああ、そういう事か……別に、わざわざ謝って貰うほどの事じゃないと思うけど。秋山さんがそう言うなら、断る理由なんてないよ』
電話だと顔まで解らないが、篠崎は本当に気にしてないようだった。
「じゃあ、篠崎が来る時間に葵も来るように言っておくよ。それで篠崎は、何時頃に来るんだ?」
『そうだね……ああ、榊原君はこれから買い物に行くんだよね? それって近く?』
「ああ、桜浜町駅前の〇オンだけど?」
「え……それって、うちのすぐ近くじゃない! だったら、私も一緒に行ったら駄目かな?」
「別に構わないけど……本当に唯の買い出しだぞ? 一緒に来ても詰まらないと思うけど」
『全然、そんな事ないよ……そ、そうだ! ワンちゃん用のおやつとか、買って行っても良いかな?』
また篠崎の声が明るくなる……俺は何を期待してるんだ。
「断る理由なんて無いよ……だったら、〇オンで待ち合わせるか? 何時が良い?」
「榊原君の家から、〇オンまでは三十分くらい?」
「そんなもんかな」
「だったら、〇オンのフードコートに十二時でどうかな? せっかくだから、一緒にお昼を食べない?」
「ああ、解った……十二時だな」
電話を切って、すぐに掃除の残りを片付ける。自転車で行くつもりだったけど、帰りは篠崎と一緒だからバスの方が良いな。
俺は忘れないうちにと、篠崎が来る事になった旨をNINEで葵に知らせる――すると直後に、着信があった。
『何よ、今日も篠崎さんが颯太のうちに来るの! それで……時間は何時なのよ?』
興奮気味に喋る葵。
「いや、まだ時間は決まってないんだ。たぶん……三時とかそのくらいになるかな」
『え? 何で時間が決まってないのよ? 適当な時間に来るとか、そんな話になったって事?』
「いや、そうじゃなくて……これから篠崎と買い物に行くことになったんだよ。買い物が終わったら一緒に戻って来るから、その前にもう一度連絡するよ」
『えー! 何でそんな事になってるのよ? 私は全然聞いてないわよ!』
耳が痛くなるほど、葵は大声で捲し立てる――何をそこまで興奮してるんだよ。
「いや、今決まった事だからさ。買い出しに行くだけだし、そんなに遅くならないと思う。じゃあ、また後でな――」
俺はそのまま電話を切ろうとするが――
『待って、颯太……私も一緒に行く!』
「おい……何を訳の解らない事を言い出すんだよ? そろそろ出掛けなきゃいけない時間だから、もう切るぞ」
『だったら……すぐに行くから、少しだけ待ってよ!』
たかが買い物に、そこまでこだわる理由が解らなかった。だけど、昨日の事もあるし、葵ばかりを無下にするのも悪いと思って、俺は少し迷っていたが――このとき、電話の向こうから車の音が聞こえた。
「なあ、葵……今、どこにいるんだよ?」
『……勿論、家よ』
「ふーん……だったら、とりあえず窓から顔を出せよ」
『…………』
つまり、葵は外出中と言うことだ。さすがに葵が帰って来るまで、待っている訳にはいかない。
「どうせ、すぐ帰ってくるからさ。篠崎と話をするのは、それからで良いだろう?」
『何言ってるのよ! そう云う事じゃ――』
葵には悪いとは思ったが、時間切れだと電話を切った。
いつもの自転車と違って今日はバスだから、イマイチ時間が読めない。俺は戸締まりを確認して、バス停に向かった。
桜浜町駅行きのバスは、それなりに本数があるので、そこまで心配していなかったが。駅に着く頃には結構ギリギリ時間になっていた。
バスを降りたらダッシュ――人波を駆け抜けて〇オンに到着すると、案内板を便りにフードコートに向かう。
何とか遅刻しなかったが、篠崎は先に来ていて。フードコートなのに座る事もなく、立ったまま俺を待っていた。
「……悪い、篠崎。待たせたか?」
「全然、待ってないよ。榊原君は時間通りじゃない!」
気にしないでよと、篠崎は微笑む――今日の篠崎は肩の出たアースカラーの涼しげな服で、白い肌の露出が多かった。
「えーと……そんな風に見られらると、ちょっと恥ずかしいかな」
篠崎に言われて――俺は彼女を見つめていた事を、ようやく自覚する。
「悪い、篠崎……」
慌てて目を逸らすと、
「もう……そんな風に言われると、余計に恥ずかしくなるでしょ? ねえ、榊原君……先にお昼ご飯にしない?」
頬を染める篠崎が――凄く可愛いと思ってしまう。
「ねえ……早く行こうよ! ここは色々あるから、ちょっと迷っちゃうね?」
照れている事を誤魔化すように、篠崎が俺を急かす――派手な格好とか、そんな事関係なくて。篠崎は普通の可愛い女の子なんだなって、俺は思っていた。
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