「卵」「十戒」「さび」 作・蜂蜜飴

ねえ貴方。

結婚するにあたって、約束したじゃない。

1、 記念日は二人で祝う。

2、 一日一回は好きって言う

3、 浮気は絶対ダメ。

4、 他の女とご飯に行かない

5、 遅くなる時は連絡する。

6、 朝ごはんは一緒に食べる。

7、 嘘はつかない

8、 10万以上の買い物はお互いの許可を得る。

9、 家事はできる時にできる方がやる。

10、約束を破ったらお仕置きする


私、10番目の約束だけは必要ないと思っていたのにな。



大きな仕事がひと段落したある日、彼は営業チームで飲み会に来ていた。午前中に納入が終わり、時間に余裕があったこともあり17時からの飲み会だった。陸は妻との約束を覚えていたが、20時には終わるだろうという予測をしていたので妻には連絡しなかった。17時から30分だけハッピーアワーとしてビールが半額になっており、彼はその30分で3杯のビールを飲んだ。ふわふわのだし巻き卵と新鮮なお刺身が売りのお店ではあったが、結果として飲み会は20時前に終わりを迎え、家路につくことはできたのだが、駅の構内で古い友人に会ってしまった。朝の占いで射手座の運勢が悪かったことを思い出していればよかったのかもしれないが、いつもより飲んでおり、上機嫌な彼にはそんなことは頭の隅っこから抜け落ちていた。古い友人と2時間ほど近所の居酒屋で懐かしい話をした後、彼が携帯電話を見ると妻からの着信履歴が3件入っていた。妻との約束と射手座の運勢を同時に思い出した彼はすぐに電話をかけたが、妻が電話に出ることはなかった。

 家に帰ると、妻は機嫌が悪そうな様子ではなかった。

「おかえりなさい。遅かったね」といつもと変わらぬ様子は、かえって彼を不安にさせた。ゆっくりとお風呂に入り、寝る前の日課になっている愛してるの一言はいつもよりも心がこもっているのが自分でもわかった。

 翌朝目を覚ますと、なぜか起き上がれなくなっていた。もしかすると金縛りにあっているかと思ったが、少し様子が違う。動かそうとするとカチャカチャとわずかな音がする。よく見てみると、手と足を手錠で拘束されていた。いつの間にやらすぐそばまで来た妻が耳元で囁いた。

「あ、もう起きたんだ」と、どこか残念そうでもあり嬉しそうでもある声色だった。

「この手錠、お母さんから結婚祝いでもらったものなの。よく見て、ピカピカに磨いてあるけど、鎖の細かいところにさびがあるでしょ。私のお母さんとお父さんが30年間使い続けた証なんだよ」そう話す妻の向こうで微かに聞こえる朝の占いでは、妻の星座である乙女座が最下位であることを謝っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る