「殺人鬼」「コーヒー」「辞典」 作・網代陸
「これまでに女性四人を殺害した殺人鬼の行方は、依然として不明なままです。警察による懸命な捜査が続いています」
テレビ画面の向こうにいる朝のニュースキャスターは、いかにも深刻そうに言った。
そんな声を耳にしながら私は、コーヒーを淹れて、香織がいるテーブルへと運ぶ。
「お待たせ、香織。怖くなるニュースだね」
透き通るような肌を持つ香織に、私は一目惚れをしたのだった。苦労することもたくさんあったけれど、今こうして共に食卓にいることができる幸せを、奇跡のように感じる。
テレビのリモコンを使い、チャンネルを回す。どの番組も、件の「殺人鬼」の話題で持ちきりだった。
「そういえば、なんでわざわざ『殺人犯』じゃなく『殺人鬼』という言い方をするんだろう」
そう疑問に思った私は、一度テーブルを離れ、本棚の一番下にある辞典を手に取った。「さ」の項目の中から「殺人鬼」を探し出すと、そこにはこう記されていた。
『平気で人を殺す残忍な人間を鬼に例えていう語。』
読んだ私は、すこし安心した気持ちでつぶやく。
「なーんだ。じゃあ、テレビの言ってることは間違いじゃないか」
私はゆっくりと、テーブルの方へと戻っていく。
「だって私は、あんなに『愛情をこめて』香織のことを殺したんだから。興奮しすぎて、全然『平気』なんかじゃなかったよ」
椅子に座った私は、まずコーヒーを一口飲む。そしてその後で、テーブルの「上」にいる香織の肉にそっとナイフを入れ、それをフォークで突き刺した。
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