第14話 王都アルムス
野宿も挟み、馬車に揺られること約一日半、とうとう王都の門の前までたどり着く。この門の前に来るのも一年ぶりで、なんだか懐かしい。
「いやー、まさかリリィが魔族を退治したからって馬車代が無料になるとはな! 王都までとなると一万ゴルドは下らないからな、こりゃあ得した!」
「もうランクさん! あれは私たちの善意の行動な訳ですから、少しは遠慮しなきゃだめですよ?」
「大丈夫だって、あのじいさんも恩返しのつもりで無料にしてくれたんだ。人の好意は受け入れるのが一番!」
そう言うと、リリィは「そういうことなら、まあ今回はご好意に甘えるとしましょうか」と少し笑って言った。
「金も浮いたし、俺のおすすめの飯屋に連れて行ってやるよ」
そして俺たちは門を抜け、王都へと入った。
王都は一年前と変わらず、多くの軍人が道を歩いており、様々な店が繁盛していた。
ちなみにここは『王都アルムス』と言い、魔法王の城がある街である。そのため前戦にいる戦闘兵などが多く滞在しており、他の街からは『軍人の街』とも呼ばれている。
そして、軍人が多いと言うことは俺を知るものが多いと言うわけで、飯屋へと向かう道中はかなりの視線を感じた。やはり前にいた街と同様に、一年経った今でも俺は裏切り者らしい。
「ランクさん、気にしなくて良いです。私がいますので!」
リリィは笑顔でそう言った。
本当に、俺は良い仲間を持ったようだ。
それから歩いて約五分、目的の飯屋へとたどり着く。
「え、ここがランクさんの言う飯屋…ですか?」
リリィは店を前にして、絶句する。まあ、気持ちは分かる。
その建物は飯屋というには少々汚れており、他の綺麗な外装のお店がたくさんあるせいで尚のこと汚れて見えた。
「確かに外装は汚いが、中は普通だし飯は最高なんだぜ?」
「は、はぁ…」
「まあ、入ってみれば分かるさ」
店の扉を開けると、そこにはがらんとした空間が広がっていた。お昼時というのに客はおらず、カウンター席には黒い肌とスキンヘッドが特徴の店長だけがポツンと座っていた。
「ようガイズ、相変わらず客の入りが悪いようだな!」
「あ!? て…おお! お前ランクじゃねぇか!」
そう言って、ガイズは俺の方へと近づいてくる。
「久しぶりだな! 一年ぶりくらいか?」
「まあそうなるな。久しぶりに飯食わせてくれよ」
「そ、それは全然構わないが…」
ガイズはそう言いながら目線を俺の隣へとずらし、不思議そうな顔をする。まあ、一年ぶりにあった男が知らない女の子連れてきたらそりゃあ不思議そうな顔するか。
「紹介するよ。こいつは俺の仲間のリリィ=スカーレッド、見た目は小さいがかなりの魔法の使い手だ」
「よ、よろしくお願いします!」
「おう、よろしくな嬢ちゃん! ちなみに俺はガイズ=トート、世界一うまい飯を作る男だ!」
ガイズは自信満々にリリィに対してそう言い切る。間違ってはいないが、相変わらず主張の激しい男だ。
「リリィ、こっちの席に座ろう」
「あ、はい!」
「あ、あれぇ…無視?」
ガイズの言葉を横目に、俺とリリィはカウンター近くのテーブル席へと座る。
「ガイズ、ステーキをくれ。リリィはどうする? ちなみにガイズはなんでも作れるから好きなもの注文すると良い」
「じゃ、じゃあハンバーグを!」
「よしきた! 旨いの作ってやるぞ!」
そう意気込み、ガイズは早速調理へと取り掛かっていた。
すると、隣にいるリリィが何やら手招きをしてくる。なんだろうか。
「あ、あの、ランクさんとガイズさんはどういう関係なんですか?」
そういえば、名前を紹介しただけで詳しいことは伝えてなかったな。
「こいつは俺が軍にいた時代、軍の食堂で飯作ってたんだよ。その時に仲良くなってな」
「そうだぜー。そいつはな、俺が話しかけてもまったく反応しない超がつくほどの無愛想だったんだぞ? 今じゃ想像つかないだろうがな! ガハハ!」
「そうなんですか!? 今の冗談ばっかり言うランクさんとはまるで正反対ですね…」
ガイズの言葉に、リリィは信じられないと言った顔をしていた。
店選び失敗したかなこれ。知り合いの店に行くと毎回俺の話になってめちゃくちゃ恥ずかしい。
「ゴホン! 俺の話は良いから早く飯作ってくれ」
咳払いをして話を逸らそうとすると、ガイズは「へいへい」と言ってニヤついていた。クソうぜえ。
だがこれでやっと一息つける。そう思ったのも束の間、店の扉が勢いよく開き、女性の声が店内に響き渡る。
「ガイズー! ご飯食べに来てあげたわよ! 仕事終わりでお腹ぺっこぺこだから早く作ってちょーだい!」
こんな寂れた店に来客があるとは驚いた。だがしかし、この声なんか聞いたことがあるな。
「おういらっしゃい、まあ席座って待ってろ。あ、お前が会いたがってたやつが客で来てるぞ?」
「え? 会いたがってって…! あ!」
「この声まさか!?」
俺は振り返り確信する。その長い銀髪、見間違えようがない。
「た、ターニャ!?」
「隊長! 久しぶりじゃない!? 会いたかったー!!」
俺が驚いたとほぼ同時くらいに、ターニャがそう言って抱きついてくる。そしてその隣では、なぜかリリィが少し怒ったような顔で俺を見ていた。
ははは、なんてバッドタイミング。
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