第13話 旅の始まり!
修行開始から一ヶ月と一週間が経過し、その間でリリィは劇的な変化を遂げていた。
リリィの魔法の才能は、どうやら飛び抜けているようで、一週間で基礎的な回復魔法をすべて覚えてしまうと、応用にも手を出していた。これにはリリーシャも感心しており、毎晩目を輝かせながら「今日のリリィは凄かった」、「今日はここまで覚えた」などの話を自慢げにしてきた。気持ちは分かるが、睡眠時間が俺まで減るのはキツすぎる。
まあ兎にも角にも、リリィは修行開始時とは見違えるほどに成長したのだ。
そして時は来た。今日俺たちは、戦争を終わらせるための旅へと出かける。
「リリィ、準備は大丈夫か?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいー!」
リリィはそう言うと、少し大きめのカバンにせかせかと荷物を詰めていた。
「にしても、そんなにいるか? これからの長旅に多分それは邪魔だぞ」
リリィに対しそう言うと、隣でリリーシャがため息を吐きながら喋りかけてくる。
「君は本当に乙女心が分かってないな。女の子はね、おめかしするための道具や可愛い服など、男よりたくさん荷物があるんだよ。それを理解したまえ」
「へー、でも乙女心とか言ってるけどさ、お前ババアじゃん」
その瞬間、頭に強い痛みを感じる。どうやらリリーシャに思いっきりぶん殴られたらしい。
「いってぇ…おいリリーシャいきなりなにすん…だ…」
そう言いながら見上げると、リリーシャがここ最近では見たことのないような顔をしていた。リリーシャさん、まさか怒ってらっしゃる?
「ちょちょ、ちょっと待て! さっきのは冗談だよ、冗談! 二回目も頭はさすがに骨が折れちゃう…!」
「問答無用! 歯を食いしばれ!」
二度目はさっきのよりも少し痛めだった。てか、頭めちゃくちゃガンガンするんだが。
「全く君は…これから王都へと出発すると言うのにそんな感じで大丈夫なのかい? これじゃあリリィも不安だろ」
すると、リリィは少しだけ笑みを浮かべる。
「あははは…まあでも、これがランクさんって言うか、なんだかランクさんらしいと思うんですよね、私…」
「ぷっ、確かにそうか! ニートでだらしなくて馬鹿らしい、それが
リリーシャは大笑いしながらそう言った。
なんでだろう、今の二人の会話で俺めちゃくちゃ傷つけられたな。ガラスのハートが割れちゃう。
そんなことを考えていると、先ほどとは一転し、真面目な顔でリリーシャが質問をしてくる。
「で、王都に行って君はなにをするんだい?」
「ああ、まずは今の王都の状況を知ろうと思ってな。ここは王都から離れた辺境で入ってくる情報はとにかく遅い。それにここで何かしたって、戦争が終わるわけじゃないしな」
「へぇ、そうかい。あまり変わっていないと思っていたが、君の中で少しは変化があったようだね」
俺の言葉に対し、リリーシャは静かにそう呟いた。その表情は優しくもあり、嬉しそうでもあり、だがどこか悲しさを含んだような、そんな表情だった。
すると、荷物を詰め終わったのかリリィがこちらへと声をかけてくる。
「ランクさん! 準備できました!」
「よし、じゃあ行くか」
天気は快晴、気温もちょうど良い。まるで世界が俺とリリィの出発を祝福しているようだな。
俺とリリィはリリーシャに手を振り、王都行きの馬車停車場へと向かった。
これから、俺たちの旅は始まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、おぇぇぇ、死ぬぅぅ…」
「ちょっとランクさん! 大丈夫ですか!?」
馬車を甘く見ていた。てかなんなんだこれ、何でこんなに揺れるんだよ。てか今日は世界が俺たちを祝福してるんじゃないの? これじゃあ祝福じゃなくて試練なんだが。
「やっぱりニートにいきなり旅はダメだったみたいだ…なあリリィ、今からでも帰らないか?」
「ダメです! あ、実はランクさんがそう言って駄々こねると思って、ノエルさんのお店で超強力酔い止め買っておいたんです!」
リリィはそう言うと、カバンから錠剤の薬が入った瓶を取り出す。そしてその瓶のラベルには、『ノエル印の超強力酔い止め! 効き目は強力、でもなにが入っているかはヒ・ミ・ツ♡』と書かれていた。うん、不安しかない。
「さあ、飲んでください! ランクさん!」
「いーやーだー! ノエルのババアが作ったそんな得体の知れない薬飲めるか! それなら回復魔法で治してくれよリリィ!」
「魔力は温存しなければなのでダメです! 子供じゃないんだから好き嫌いしないでください!」
リリィは頬を膨らませながらそう言った。
だが、嫌と言ったら嫌なのだ。飲めば今より具合が悪くなりそうな気がしてならない。
リリィとそんなやりとりをしていると、馬車が急に停止した。そして、馬車を動かしていたじいさんは焦った様子でこちらへと声をかけてくる。
「お、お客さん! 早く逃げてくだせい! こいつはやばいですよ、魔族ですよ!」
じいさんの言葉を受け外を覗いてみると、そこには確かに空を飛ぶ下級魔族がいた。しかもその魔族はこちらへと敵意を向けており、どうやらこの馬車を襲う気らしかった。
「あー、じいさん。あれなら大丈夫、馬車の運転続けてくれや。おいリリィ、修行の成果を試すのにはもってこいなんじゃないか?」
「そうですね、こちらに敵意を向けてるようなので、おじさんに被害がある前に退治しましょう」
リリィはそう言うと、馬車から身を乗り出して馬車の屋根へと登る。
「ちょっとお客さん! あのお嬢ちゃん死にますよ!?」
「大丈夫だよじいさん、リリィの見た目は確かに幼いが実力だけで言えば戦闘兵の軍人に引けは取らない…!」
リリィの適正は確かに光属性の回復特化だ。だが、それは決して対人魔法を使えないわけではない。
リリィはこの一ヶ月で、回復魔法の基礎と応用をマスターした。それだけでも十分だったのだが、なんとリリィは余った時間で勝手に覚えてしまったのだ。対人魔法も。
「魔族さんごめんなさい。ですが、罪のない人に迷惑をかけようとする悪い子にはお仕置きです! 『
リリィは対人魔法を唱えて光の矢を出現させる。そしてその矢は、下級魔族目掛けてもの凄い速さで飛んでいった。
「光属性の魔法の特徴は速いところにある。今のリリィの実力ならば、下級魔族程度は
リリィの放った矢は真っ直ぐに進み、見事に下級魔族を射抜く。
それは、狙いも速さも完璧なものだった。にしても、魔法を覚えて一ヶ月ちょっとで下級魔族を仕留めるとは、なんと恐ろしい才能だろうか。
「ランクさん! 私にもできましたよ!」
リリィは笑顔でそう言った。
「ああ、見事だったぞ」
この笑顔を見ると確信できる。リリィは魔法を殺すためではなく、守るために使っているのだと。
おそらく、リリィは昔の俺のようにはならないだろうな。
「どうかしましたか? ランクさん」
「いや、なんでもないよ…」
そして俺たちは馬車に揺られ、王都へと向かった。
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