第7話 変わり果てた街

「なんだ…これ…」


 到着した街は数日前の原型を留めてはおらず、火は燃え上がり、幾つもの建物のほとんどは半壊状態となっていた。そして道には倒れている人間や逃げ惑う人間が混在しており、その景色はまさに地獄そのものだった。

 すると、街に入ってすぐのところに倒れ込んだ男を見つける。どうやら門番を任されている駐屯兵のようだ。


「おい、さっきここで何があったんだ?」


「お、お前は、ランク=アインメルトか…お、お前のような、腰抜けに、話すことはない…!」


 まあこういう反応をされるとは思っていたが、緊急時のプライドほど面倒くさいものはないな。


「アホか。お前がそうやって意地張ってる間に、街の被害はさらに拡大する。それに、駐屯兵しかいないこの街で、魔族に対抗できるのは俺だけのはずだ」


「ぐっ…!」


 するとその駐屯兵は、顔を歪ませながらも経緯を話し始めた。


「お前も聞いただろ、さっきの音。あれは魔族による爆発系の魔法だった…そして、一瞬ではあったが姿は見えた」


「本当か!」


「あ、ああ…魔族は3人、おそらくはまだこの街のどこかにはいるはずだ」


 駐屯兵は少し曖昧ながらも、かなり有益な情報をくれた。これはかなりの収穫と言える。


「助かった、ありがとう。これやるからまだ生きてる住民を助けてやれ。じゃあな!」


 それだけ言って俺は回復薬を駐屯兵の男へと投げ、街の中心部へと走った。

 しかし3人の魔族か…仮に上位魔族だとすると、これはかなり厄介かもしれん。それに、街一つを壊滅状態にできるほどの魔法を唱える魔族が、この街に飛来したことは確定している。

 そして経験上、駐屯兵程度がそんなレベルの魔族と相対できるとは到底思えない。だが、軍人となる人間は漏れなく死を美徳と思っている節がある。おそらくは、いくら敵わない相手だろうと命を賭して戦うことだろう。しかしそんなことはさせない。


「絶対に助ける…!」


 その時、右の方向から高い魔力を感じる。それは家にいた時に感じたものと同じものだった。

 そして、急いで向かったその魔力の先にいたのは、駐屯兵の男が言っていた通り3人の魔族で、黒い翼を生やした角の無い魔族が2人と同じく翼を持つ二本角の魔族が1人だった。さらにそこには、案の定駐屯兵の男が2人おり、その2人は以前リリィに危害を加えようとした男たちだった。


「あ、兄貴…!」


「ああ、分かっている。今こいつらを足止めできるのは俺らだけだ。住民が逃げる時間を稼ぐためにも、ここは死んでも戦うしかない!」


 性格がいくら捻じ曲がってようとも、どうやら軍人としての根底まで曲がってはいないらしい。しかし、相手の魔族を見るに控えている無角の2人は下位だが、残りの1人は間違いなく上位魔族だ。


「クフフフ…時間稼ぎですか。稼げると良いですねぇ! 〈黒き球体ブラックボール〉!」


 すると、上位魔族は指先に小さな黒い球を出現させる。あれは見た目こそ大したことはないが、殺傷能力の高い対人魔法。あれを食らえば確実に死ぬ。少し様子見をしたかったがしょうがない。


「死にたくねぇならそこ動くなよ! 〈聖なる盾ホーリーシールド〉!」


 聖なる盾は、魔法攻撃専用に考案された対魔攻魔法。対人魔法である黒き球体程度ならば余裕で防げるはずだ。

 そして聖なる盾とぶつかった黒き球体は、盾の防御力を突破できず、破裂するように消えた。


「ほう、まさかこの街に、まともな魔法を使いこなす人間がいたとは思わなかったですねぇ…」


「てめぇは、ランク=アインメルト…!」


 駐屯兵の一人がそう言って睨んでくる。命の恩人に随分な態度だな。だがしかし、命を助けたのは決して死んで欲しくないからとかだけではない。人命救助には人手が多い方が良いからだ。


「今は争ってる場合じゃねぇだろ! この街で魔族と戦えるのは俺だけ…それが何を意味してるかは、どんなにアホでも分かるはずだ」


 俺の言葉に駐屯兵の男は少し考え込むようなそぶりを見せたが、その後に浅く頷いた。


「そうだな…分かった」


「い、良いんですか兄貴…!?」


「馬鹿か。人命救助は俺たち駐屯兵に任された今現在における最重要事項だ。俺たちはあくまで、優先順位に従うだけだ。いくぞ」


 そう言うと、2人は被害の多い中心部へと走り去っていった。1人だけでも理解のある奴がいて正直助かった。

 さて、本題はここからか。


「お前は上位魔族だな?」


「もちろんですとも。そう言うあなたは…軍人という感じではありませんね」


「そりゃそうだ。なんだって俺は、ニートだからな!」


 そう言って俺は、上位魔族の後ろに控えてた下位魔族2人をぶん殴る。実際、格下相手ならば物理攻撃が一番対策されづらく、尚且つ早い。


「ただの突きで、下位とは言え魔族2人を殺すとは、あなたかなりやりますね?」


「ちっ…お前もな!」


 どうやら上位魔族の方はかなりの手練れのようだ。さっき下位魔族をぶん殴った際、ついでに蹴りを入れようとしたが普通に躱された。これは、なかなかにキツい戦いになりそうだ。


「クフフフ。やはり、こんな辺境にわざわざ赴いて正解でした…!」


 上位魔族はそう言って、ニヤリと笑みを溢した。

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