第6話 日常に起こる異変
開いた窓から風が抜け、それが少しだけ頰に当たる。日差しはとても暖かく、体中の力が抜けるほどに気持ちが良い。
「はぁ、今日はなんて良い天気なんだ…これはもう寝てよう日なのでは?」
「そんな曜日はありません!」
「あははは! 君たちは朝から元気だねー!」
この状況を見てリリーシャは大笑いしながらそう言う。
いや、元気なわけがないだろ。眠いし、だるいし、気分悪いしでもう最悪だ。てか普通、ベットで気持ちよく寝ている人間を叩いて起こすか? ドッキリでもやってるの?
というか、仲間になってくれって言ったあの日から、リリィがさらに口煩くなった気がする。
ここは一つ、俺の仲間ということを再認識させなければならないな。
「おいリリィ、俺たちはどういう仲間だ?」
「え、困ったときは助け合うって意味の仲間じゃないんですか?」
「ははは! 冗談がうまいなリリィは! ニート仲間に決まってるだろ?」
「それはぜーったい、違います!」
リリィはそう言って、指を指して睨んでくる。
いったい何が不満なのだろうか、全く分からん。
するとリリィは、後ろにいたリリーシャを手招きして呼び、耳打ちをする。
「リリーシャさんからも、ランクさんに言ってくださいよ」
「へ? あ、あー…そうだね!」
おいリリーシャ、お前すっかり忘れてただろ。
リリィもそれが分かったのか、頭を掻きながら小さくため息をつく。
「はぁ…とりあえずランクさん、後で私と街へ買い出しに行きましょう!」
「え、またか?」
「はい、またです! 今日はたくさん買うものがあるので、しっかりとついて来て……きゃっ!?」
リリィの言葉の途中、急に大きな音と風圧が発生し、家の窓がガタガタと揺れる。どうやら街の方からのようだ。
「へ!? な、なんですか、なんの音ですか!? 竜巻かなんかですか…?」
いや、自然災害なんてそんな可愛いもんじゃない。これは…。
「ランク、これは魔族による魔法攻撃…だね」
「ああ、どうやらそのようだな」
音と風に気を取られ、最初こそは気づかなかったが、これは完全に魔力の気配だ。そしてこの感覚。忘れるはずはない、明らかに魔族だ。
「だがリリーシャ、少しおかしくはないか?」
「ああそうだね。魔法王と魔王は、一年前に『休戦条約』を結んだはずだ。まだ効力のある今において、これは明らかな条約破棄…魔王がそんな得のないことをするとは思えないが、現実に起こっている以上はそれを行なったと考えるのが無難だな。おいランク!」
「ああ、分かってる。リリィ、お前はリリーシャとこの家にいてくれ。俺は街に行く」
休戦とは言っても戦争中、それは分かっているがいくらなんでも不可解だ。これは早急に調べる必要がある。それに、街にいるのは駐屯兵ばかりで、おそらくは魔族に対抗できる人間はいないだろう。このままでは大勢の死者が出てしまう。
「ちょっと待ってください!」
扉の取手に手をかけた瞬間、後ろからリリィに呼び止められる。
「私も行きます、連れて行ってください! 私はあなたの仲間なのでしょう? ならば何かお役に…」
「来るな! これは前に駐屯兵に絡まれたとかそういうんじゃない…本当の恐怖だ! 死ぬ可能性だってある。そんなところに、お前を連れて行けない!」
「で、でも…私は…!」
戦争とは恐怖であり狂気だ。人を殺し、殺されて、それが名誉であり、誇りであり、そしてそれを喜ぶのはいつでも高みの見物を決め込んでいる権力者だけ。そんな腐った場所に、リリィは絶対に連れて行けない。
「リリーシャ…リリィを頼んだ」
「ああ、任されたよ」
「ランクさん、ランクさん待って…!」
最後にリリィの声が聞こえたが、俺はそれを無視した。そして、開けた扉を大きな音が鳴るように、あえて力強く閉める。
これから起こることは決して、冗談や悪い夢なんかじゃない。本当の、正真正銘の現実であり、殺し合いだ。
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