第4話 ノエル道具店
「ランクさーん! こっちこっちー!」
「おーう…まさか今日の仕事が街に買い物とはな。しかもリリィと…」
リリィは初めて街に来て楽しそうにしているが、正直なところ俺は全く乗り気じゃない。というかリリィと2人きりで街に行ってこいというところに、リリーシャの悪意が感じられてならない。
「で、リリーシャはなに買って来いって言ってたんだ?」
「えーっと、ノエル道具店というところで魔法道具をいくつか購入して来て欲しいとのことでしたよ?」
「マジかよ。てことはあいつの所に行かなきゃダメなのか…」
「あ、あいつ…?」
「そこの店主のノエルってババアのことなんだが…まあ、ついてきたら分かる」
そう、ついてきたら分かるはずだ。なぜ俺がここまで嫌悪を示しているのか。
そんな気持ちの中、道具店の扉を開けると、そこからは予想どおりの展開が待っていた。
「おやランクじゃないかい! なんだい? そろそろ働く気になったのかい?」
「なってねぇよ。おいババア、火炎石と電光石をさっさとよこせ」
「あっははは! なんだい、まだニートするのかい! 相変わらずだねぇー!」
「う、うぜぇ…」
そのやりとりを見ていたリリィは、俺がなぜ道具店へと行きたくなかったかを理解しのか、「な、なるほど、そういうことでしたか…」と静かに呟いていた。分かってもらえて何よりだ。
すると、ノエルは俺の隣に立っているリリィに気がついたのか、リリィのことをじっと見ていた。
「そういえばランク、さっきから隣にいるそこの女の子だけど誰なんだい? 誘拐かい?」
「なわけないだろ! こいつは訳あって、今うちに居候してんだよ」
ノエルに対しそう説明すると、隣にいたリリィは俺の一歩前へと出てお辞儀をする。
「は、初めまして! リリィ=スカーレッドと言います。よろしくお願いします!」
「あら、これはご丁寧にどうもね。私はノエル=シーベスだよ。リリーシャとは小さい頃からの仲でね、仲が良いんだよ」
「へぇー…え!? 小さい頃から!?」
ノエルの言葉にリリィが驚愕する。
そういえば話してなかったし、驚くのも無理はないか。
「リリーシャの見た目はかなり若いが、あいつはかなりババアだぞ。どれくらいババアかと言うと、ノエルがまだ赤ん坊の頃から今と同じ容姿だったと俺は聞いてる」
「まあ、リリーシャは魔女だからねぇ…」
その言葉で片付くのかは知らないが、リリーシャはそれくらいの永久を生きている。しかも、それに伴って実力も恐ろしいほど凄いものだからたちが悪い。
そんなことを考えていると、店の扉が突然大きな音を立てて開き、そこから軍服を見に纏った二人組の男が入店してくる。片方は中肉中背で、もう一人は典型的な痩せと言った体型をしており、二人とも少し小生意気な顔をしていた。
その男たちは店内を少しだけ物色すると、俺に気がついたのか、づかづかと近づいてきた。
「おーっと? これはこれは、腰抜けのランクさんじゃないですかぁ?」
「おいおい、昼間っから買い物とは良いご身分だなぁ?」
するとその男たちは、典型的というような煽りを全力でぶちかましてくる。まあ腰抜けなのは本当のことだしな。ここは笑って流すのが一番利口だ。
「なはは、いやまあ買い物でなー」
「みんな噂してるぜ? ランクは負け犬だ、この街の汚点だってな」
「へ、へー、それは教えてくれてありがとな」
こいつら、黙ってたら好き放題言うなぁ。
そんなことを思っていると、隣にいたリリィがなぜかは知らんが少しばかり眉間にシワを寄せていた。なんだか悪い予感がしてならない。
「ちょっと良いですか? お二人は勘違いしています。ランクさんは大きな猪から私を助けてくれましたし、確かに少しめんどくさがり屋ですけど心優しい人です! 決して負け犬なんかじゃないし、汚点でもありません!」
リリィは軍服の男たちに向かって、大きな声で反論をする。どうやら悪い予感的中のようだ。
「なんだチビ? お前こいつがなんなのか知らんのか?」
「え…?」
「その様子だと知らないようだな」
「なあ兄貴、こいつよく見たら意外と可愛くないですか?」
「お、確かに…おいチビ! 特別だ、俺らが可愛がってやるよ」
そう言うと男二人は、リリィの腕を引っ張り外へと連れて行こうとする。リリィはやめてくださいと抵抗してはいるが、さすがに体格的に振り払うのは無理そうだった。
こうなるから穏便に済ませたかったし、街にリリィと行くのは気が進まなかったんだ。
「なぁお前ら、ここは俺の顔を立てて帰ってくれよ」
「は? なにを言って…」
「な、良いだろ?」
「ぐ…ちっ! 行くぞ!」
「へ、へい…!」
その言葉を受けてか、男たちは急ぐように外へと出て行った。どうやら分かってくれたらしい。
だが、今回は良かったものの、こう言うことが何回もあってはとても困る。ここはしっかりと注意しなければ。
「リリィ、こういうときは流せ。自分が危険になったら意味ないだろ?」
「す、すいません…でも私、許せなかったんです! あの人たちがランクさんを侮辱するのが…!」
「それはありがたいんだがな…」
「まあまあ、良いじゃないか。こう見えてもランクは、元最強の軍人な訳だし、結果オーライさ!」
「軍人…?」
ノエルの言葉に、リリィはポカンとした顔で首を少し傾げていた。このババアはさらりと余計なことを言う。
だがまあ、後々話題に出るとは思っていたから話しても別に問題はないか。
「言い忘れてはいたが、俺は元軍人だ」
その俺の言葉に、リリィは驚愕の表情を浮かべていた。
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