第2話 ニートと少女
「起きろランク!!」
怒鳴り声が部屋へと響き渡る。その声に俺は仕方なく体を起こし、声の方を見る。紅い長髪をなびかせるその立ち姿。どうやら声の主とは、俺が居候している家の家主であるリリーシャ=セブンのようだった。
外を確認すると日は真上、昼真っ只中だ。
「たく、うるせぇなぁ。まだ昼じゃねぇかよ」
俺からしたらまだまだ早朝ということで、リリーシャにそう言い放つ。こんな早くに起こすとは全くもって迷惑だ。
しかし俺の返事に、リリーシャは不満いっぱいと言うような顔で詰め寄ってくる。
「もう昼だ馬鹿者め! それにランク、そろそろ働いたらどうだ? 君が軍人から足を洗って約1年、なにかするもんだと待ってはいたが、食って寝るだけのニート生活…私は君が情けないよ」
「ふっ、情けなくて結構! 俺は完全無職を謳歌するのさ!」
「はぁ…」
なぜかは知らないが、リリーシャは俺の言葉に対し大きめのため息を吐く。そしてグイッと服を引っ張られた。
「まあなんだ…とりあえずは働け!」
「は、はい…! で、俺は一体なにをしたら良いのでしょうか…?」
「簡単だよ、そこの森に行って猪の一匹でも狩ってきてくれ。できるよな、ニートくん?」
「わ、わかりましたあああ!!!」
そして俺は、逃げるように外へと飛び出した。
昼間ということもあり、外の気温はなかなか高く、正直溶けそうである。ニートには辛い。
「やはり一週間ベット生活は不味かったかぁ。よし、帰ったら土下座でもして許してもらおう! まあ、さっさと今日の飯捕まえるか…ん?」
猪探しのために周囲を見ていると、前方からなにやら近寄ってくるものを見つける。そしてよく見ると、それは小柄な少女だった。
「た、助けてーー!!」
その少女は汚れた服を着ており、その声音からしてそこそこの危機だということはすぐさま理解できた。面倒臭いがしょうがない。
とりあえずはその少女の元へと向かい声をかける。
「おい、なーにやってんだ?」
「え、今どこから…あ、そんなことより助けてください! 大きなモンスターに追われてて…」
「モンスターだぁ?」
その言葉を受け後方を見ると、追いかけてきていたのは巨大猪だった。体長5メートルは下らない大物だ。
「こいつは良い! ナイスだ!」
「え…! 危ないですよ!」
「今日の飯いただきだ!!」
その言葉と同時に猪へと近づき、それのデカ鼻めがけて強めに突きを放つ。すると、猪はそのまま地面へと倒れてしまった。
「お、お兄さん、すごい…」
その声に振り返ると、呆気なく巨大猪が倒されたことに驚いたのか、少女は地面に座り込んでいた。その少女の姿を改めてよく見てみると、綺麗な金色の髪に蒼色の目を持った美しい外見をしていた。さっきまではあまり気にしていなかったが、かなり可愛い。
「ん? そうだ。こいつ狩れたのもお前のおかげだし、ごちそうしてやるよ」
「え、良いんですか?」
俺の言葉に少女はそう質問してくる。おかしなやつもいるもんだな。手柄は分割、それはどこでも常識だ。
「まあ、お前の手柄でもあるわけだし、何より飯は大勢で食った方がうまい。嫌なら無理にとは言わないが…」
「い、いえ! ごちそうになります!」
俺の言葉に少女は表情を明るくし、少し食い気味にそう答えた。
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