カンパネラの旅路~銀河鉄道の夜より~

葉月瞬

第1話 終着駅

 カンパネラは目を覚まして、開口一番こう言った。

「ああ、ぼくは今まで死んでいたようだ」

 そして、辺りを見回す。

 ここは南十字星。銀河鉄道の終着駅だ。地上から運ばれた魂が、解放されるところ。実際には南十字星からもっと上に昇らないといけないのだが、カンパネラはどうやら寝てしまったようだった。友人と別れた後だった。寝ていた間に、友人との記憶が無くなったようだ。

 彼は生きている人間だから仕方が無い。死者と関わってはいけないのだ。

 とぼとぼと坂道を登っていく。まるで空に昇るような感覚だ。

 歩き出して漸く気付いたが、一面に花畑が広がっていた。どうやら群生地帯のようだ。同種ではなく、所々違う種類の花が咲いているが名前が思い出せない。学校で習ったはずなのだが。

「学校……?」

 その、記憶すらも失っていた。

 よくよく観察してみると、花の中には小さな仏様のような神様のようなものたちが潜んでいた。全ての花がそうだった。観察しているカンパネラを見ていぶかしんだり、笑ったりしている。

 耳を澄ましてみると、皆一様に地上での出来事を話しているようだった。

 やれ飢饉がきただの、大震災が起きただの、戦争が近いだの……。人々の記憶に新しいことを口々に宣っている。

(そうか。この人達は……。でも、なんだか楽しそう)

 カンパネラは静かに微笑んだ。


 記憶を捨てる原を越え、丘へと登っていく。頂上に立って振り返ると、蓮の花畑が広がっていた。ほとんど無限に思えるほど広大に。しかし、カンパネラはそれが蓮の花であると知見することはない。

「うわぁ、綺麗だなぁ」

 ため息混じりにうっとりと呟いただけである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る