お手洗い
お手洗い<Ⅰ>
裏道は狭いがダンジョンよりも照明が明るくかなり奥まで見通せた。
今更俺様男の目など気にせずコンソールを開いてマップを参照しながら歩いていた。
「あ、あのさ……」
身体をモゾモゾとさせながらデルが呼び止める。
「どうしたんだ。身体の調子でも悪いのか」
「そ、そうじゃなくて……」
「ああ、なるほど。うんこ……ぐえ!」
肘打ちが脇腹に炸裂。彼女の力は俺よりも低いはずなのに、どうしてこうも痛いのか。
「違う!」
「だからって殴らなくても良いだろ……なんだ違ったのか」
「ち、違うけど違わない」
どっちなんだよ。
「空気くらい読めよ。彼女は怖いんだよ。だからこういうときはこう黙って抱きしめ……」
「黙ってろ」
「…………」
余計なことを言い出す俺様男にデルは男らしく拳を突き上げると、開いた口のまま黙って後ろに下がっていった。
そんなにかかと落としが怖いなら黙っていれば良いのに。
「ああ、おしっこの方か」
「だから言うな!」
「なんだ。だったらその辺で適当にしてこいって、……あ、いや、すんません。これ以上蹴るのは止めてください」
どうも懲りない俺様野郎。
デルに睨まれて、ソーリーと手を上げながら黙って再度後ろに下がる。
「とはいえ、それっぽい施設があるわけがないし」
「やっぱりそこら辺で……」
睨まれてしまった。まあ男二人に見られてするのなんて嫌なのは確かだ。
「それじゃあ、どうするか」
「どこか曲がり角とか行き止まりとかないの?」
「そんな都合の良い場所は……えーっと……」
少し調べるとちょうど窪んでいるところをマップ上に見つけた。
「ここなら良いんじゃないか」
直ぐさまそこへ向かうと扉が付いていた。こういう場所なので罠はないだろうと開けてみると狭い空間があるだけだった。
「なんだこれ、倉庫?」
にしては何も入っていない。
「と、とにかくここでするから二人とも出てけ!」
いずれにせよ限界だったデルはそこで始めようとする。
「危ないから扉は閉めるなよ」
「分かってるわよ! とにかく見るな! 聞くな! 離れ……ると危険だから耳は塞いで!」
「ガキのションベンになんて興味ないって」
「殺すぞ」
ヘラヘラと俺様男が笑って言うと、本気で人を殺しそうな顔でデルが睨み付けた。
「は、はいっ、では下がってます」
余程蹴られるのが怖いのか。素直に窪地から結構離れて耳を塞いで目を瞑った。
俺の方は結構な無茶を言われたが、やはり心配なので近くに待機。
「聞こえてる!? 聞こえていないよね!」
「大丈夫、聞こえてないよ」
「聞こえてんじゃん!!」
怒られた。
「とにかく耳を塞げ!」
「へいへい」
おしっこなんて初対面のときに超接近で見た仲なのに何を今更と思うが、そんなことを言ったら殺されないにしても、俺様男と同じ目に遭いそうなので黙っておく。
結局彼と同じくらいの場所まで下がることにした。とはいえ目は瞑らない。怖いので。
すると扉が閉まっていくのが見えた。
「お、おい! だから閉めるなって!」
「ふう……、あ、あれ? ちょ、ちょっと! 扉が勝手に!」
慌てて扉の前に行くと、一瞬だけデルが見えてそのまま扉が閉まってしまう。
急いで調べてみるが罠のようなものはないので再度扉を開く。
「デル! って……嘘だろ」
そこにデルは既に居なかった。どういうことだ!?
床を見ると布のようなものが落ちていて、それになんか濡れている。
「なんだこれ……水……? いや少し違う?」
あまり匂いはしない。試しに少し触ってみると温度を感じる。これは……間違いない。
「デルのおしっこだな」
そして布の方を拾ってみると、予想どおり彼女のズボンとパンツだった。
「これは一体どういうことだ?」
消えたにしても一体どこへ……転送するよう魔方陣でもあるのか?
「つまり今のデルは……」
下半身を丸出しにして何処かに飛ばされたということか。お気の毒に。
うーん、それにしてもだ……この世界でもパンツの布地ってこんなに少ないのか。アティウラもそうだったけど、これってちゃんと大事な部分は隠せているのか? ズボンにしてもちょっと小さすぎやしないか。
などと考察していると扉が閉まることに気付かなかった。
ぱたん。
「え、あ……しまっ!? おわ!?」
うぃーん……。
すると今度は床が輝きだした。
魔方陣のようなものが浮かび上がると俺ごとそのまま上がっていく。
一瞬天井に潰されるんじゃないかと身構えるが、天井は何か黒い空間の様になっていてデルがそうならなかったので意を決して俺もその中に入っていく。
「え……」
「何……?」
なるほどこれはおそらくエレベーターの一種だな。操作法などはよく分からないがこれで上昇出来るわけだ……。
上がった先も同じような造りの部屋となっていて、そこにはデルが居いたので一安心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます