そしてダンジョンへ<Ⅴ>
「僕とあんたで引っ張れると思う?」
「それもそうか……」
確かに俺とデルじゃ、フル装備の彼らを引っ張り上げるのは難しそうだ。
「悪いんだけど、なるべく軽くなってくれない?」
「冗談じゃない! せっかくのお宝を捨てろというのかよ!」
粘液でベタベタになった麻袋を大事に抱える俺様男。
「いや、物理的に無理だろ。俺と彼女で持ち上げられるわけないじゃないか」
「そ、それは……、だ、だったら投げればいいんだ……うわぁ!?」
放り投げようとしたが粘液のせいで相当滑るらしく、そのまま麻袋ごと前のめりに倒れた。
「うわっ……、今度は顔から行っちゃったよ……」
デルがドン引きしている。俺様男はそのせいで全身粘液塗れになってしまった。
「無理するなって、そんなことで怪我したらどうするんだよ。それとも戻って救援を頼んでこようか?」
当然試験は不合格となるけど。
「ま、待ってくれ! 分かった。俺なら装備は少ないし軽いはずだから頼む。でもこれだけは受け取ってくれないか?」
そういって魔術師が持っている麻袋を捨てると、壁を伝ってなんとか立ち上がり自身の持つ魔法使いの杖を上に伸ばした。
デルが黙ってそれを受け取って引っ張り上げる。金属製の立派そうな杖だったがぬるぬるである。
「じゃあロープ下げるから」
そう言ってロープを下げると俺とデルでしっかりと掴んで待つ。
魔術師はロープを掴んで登ろうとするが手が滑って登れない。そこで自分のローブをタオル代わりに粘液を拭いて再び登ろうとするが今度は足が滑ってしまいやはり登れない。
こうなったらと俺とデルで必死になって引っ張り上げると、なんとか魔術師の上半身まで上がり、そこから必死になって藻掻いてなんとか這い上がってきた。
彼は背嚢からボロ布を取り出すと脚や手についた粘液を拭き取る。
その後は、まだ諦めきれないバンダナ盗賊と俺様男を尻目に一番重そうな女戦士を引き上げることにする。
彼女も持っている麻袋を捨てて魔術師と同じく自分の装備、剣と盾を先にこちらに渡す。
今度は3人で引き上げるから大丈夫だろうと思ったが、魔術師はとても非力でおそらく俺やデルとほとんど変わらない筋力だった。
女性ではあるが金属製の鎧を着ているので当然苦労するがそれでもなんとか引き上げることに成功する。
二人だけになるとバンダナ盗賊が観念して麻袋や腰に付けていた袋を全て破棄して救助を求めてきたので引き上げる。今度は女戦士のおかげで比較的あっさりと引き上げられた。
「お、俺は諦めないからな!」
まだ諦めきれない俺様男。
その間に穴から脱出した3人は布などで粘液を拭き取り始めた。
「うわぁ……、凄いことになってる……」
ウンザリ顔の女戦士、うーむ、粘液塗れの女性戦士ってなんか……エロ系の定番だよね。
「水とかは持ってないの?」
「ダンジョンだし直ぐに終わると思って……」
だから準備くらいちゃんとしておけよと……。
仕方ないので水袋を雑嚢から取り出すと、女戦士に渡してこれで手や脚を洗うように言う。
「俺達にはないのかよ?」
不満そうに言う野郎二人。
「あんた等は前衛じゃないんだから我慢しろって、もし彼女がこの先の戦闘で足を滑らせたり武器とか落としたりしたらどうするんだよ」
俺の言葉に二人は黙ってしまう。一応彼らは俺様男と違って道理は通じるらしい。
「ふう……ありがとう。助かったわ」
籠手やブーツなどを水で洗い流し終える女戦士。
「いい加減そんなの諦めて登ってきなよ。こんなところで立ち止まっていたら試験落ちちゃうじゃん」
「だったら、お前等はそれでいいのかよ!」
埓が明かないと思ったのかとうとう女戦士が俺様男に登ってくるように言う。
「良いも悪いも……私らは失敗したんだよ。この子達が止めてくれたのを無視して取りに行ったのがそもそも悪いんでしょ」
「だからって俺等はお宝を求める冒険者だろ!」
俺様男はよほど金に困っているのだろうか。結構必死である。
「命あっての物種だろ。彼らが助けてくれなければ我々はどうなっていたか。だから彼らの言葉に素直に従うのが筋だろう」
盗賊が最もらしいことを言っているが、そもそも最初に脱線して素材を誤魔化したた挙げ句に、罠の存在に気付かなかったからこうなったのではと、まさにお前が言うかと思ったがとりあえず黙っておく。
「一応全員で戻ってこいって言われているけど、本人が救助を拒否している以上、やむを得ずってことで進んでもいいんじゃないか?」
「それもそうだね。ダンジョンに出て直ぐに欲に目が眩んで脇道に逸れて罠にハマった挙げ句に素材を手放したくない一心で救助を拒否されたったって説明すればいいでしょ」
俺とデルがそう提案すると、3人は一応の仲間意識があるのか迷った顔をする。
「分かった……置いていくから助けてくれよ!」
やっと諦めた俺様男は助けを求めてきたのだった。
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