どうしても身体が先に動く勇者様

どうしても身体が先に動く勇者様<Ⅰ>

「連れてきやした!」


「あ! ……あ、あぁ……う、うん」


 村の外れから連れて来られた獣人達はケモミミだとばかり思っていたが、本当にただの獣であったことに一気にトーンがダウンしてコレジャナイ感が顔に出まくる卿御洲だった。


 確かにケモミミである。だが彼らは獣が二足歩行の体型になっただけであり、人間に可愛らしい耳や尻尾が生えたものではない。


「……な、なんだよ」


 これじゃただの魔物の一種じゃないか! 口から出かけたが、やはり心の中でそう叫ぶ卿御洲。

 彼には魔物や亜人などの知識はないため獣人を魔物の一種だと勘違いしてしまう。


「そ、そいつ等は俺達の身内じゃなく、この近くに勝手に棲み着いているだけだ!」


「そうだ! だから俺達とはなんの関係もない!」


 卿御洲がガッカリしたのを何かと勘違いした村人達の一部が獣人を自分達の身内じゃないと口々に言い出した。

 彼も人を殺すのに躊躇いはあるが魔物を殺すのも殺されるのもさほど抵抗がなくなっていた。


「……だったら、食べさせてもいいかな」


 その言葉に連れて来られた獣人達がびくりと身体を一瞬震わせる。

 そして必死で子供を後ろに隠そうとしていた。



 ケイオスくんが獣人相手に喜々としてあの光線銃を取りだしたのが見えてどうするつもりなのかと考えていたが、連れて来られたのが獣そのものであったことにガッカリと肩を落とした。


 それで全てに合点がいった。


 彼奴は可愛らしい女の子、とりわけ亜人や獣人をあの光線銃を使ってテイム、つまり支配下におきたいのだろう。

 昨日俺達を必死で追ってきたのは多分アティウラを狙ったと思われる。おそらくオークやノールから情報を得て女戦士族だとかメイド服だとか聞かされて欲しくなったんだな。


 だからって獣人には興味が失せたからってトロルのエサにするか?


「……って待て待て待て!! ふっざけんな、何喰わそうとしているんだ! 人里に住んでいるいるんだから、彼らは友好的種族だろうが!」


「ちょ! アンタそれ作戦と違うって!」


 デルが俺の手を掴もうとするそれよりも先に森から出て思わず突っ込みを入れてしまった。


「え、だ、誰……!?」


 急に出て来た俺に思い切り驚くケイオスくん。


「あ……え、えーっと、お、俺はお前と同じ地球から連れて来られた人間だ! 魔物に亜人を喰わすなんてしてもいいのかよ! いやすんな! それにその人達は俺の恩人だ!」


「な、え? ……そ、それ……は」


「それにこの村の人達を集めてどうするつもりだ! それでもお前は勇者なのか!」


「そ、そう……じゃな……」


「ちゃんと意味が分かってやっているのか!」


「……だ、だから」


 俺の言葉に、俯き気味にごにょごにょと口籠もるような喋り方で何を言っているかは分からなかった。


「魔物に任せきりにしていないで、せめてちゃんと自分の手と口で下せよ!」


「う、うるさい! それくらい、わ、分かってる!」


 捲し立てた俺の言葉に対して、怒りを露わに大きな声を出した。


「え、あ、そう?」


「……で、でも」


 だがその後はまたもぶつぶつと呟く程度の大きさでやはりちゃんと聞き取れない。


「はい? ごめん、もう一度……」


「……だ、だから……」


 距離もあるので何を言っているかよく聞こえずに思わず聞き返した。


「……その」


 もしかして彼は世間で言うところのコミュ障ってヤツだろうか。

 とにかく声が小さく、ぼそぼそと何かを言っているようだが全く聞き取れない。


「ああもう! 相手は勇者なんすよね! だったら倒すしかないっすよ!」


 様子を見ていたオークとノールが話が進まないことに苛立ち、何やらゴツい武器を構えてこちらに向く。

 魔物ってそんなの持ってんのか!? でも何処かで見たような……って、3バカの武器じゃねーか! 何奪われんだよ!


「大将! どうしやす!?」


「……え、ど、どうって」


「相手はあきらかに敵なんですよ!」


「で、でも……」


 俺とケイオスくんが話になっていない話をしている間に、3バカにかぶりつくのに飽きた小さい方のトロルが獣人の方に手を伸ばしていた。


「ちょ! ちょっと待てって! それをまずは止めさせろよ!」


 俺とトロルを何度か見渡すが、ケイオスくんは止めようとはしなかった。


「え、でも……」


「でもじゃねえよ!」


 しまったぁ……思わず飛び出してしまったから何も対策を考えていなかった。

 ど、どうしよう。俺の力じゃトロルは止められない。


「……やれやれ、仕方ない」


 隠れて様子を見ていたアティウラが呆れた顔をしつつもどこか嬉しそうに動き出そうとする。


「待ってください」


「……止めないで」


 セレーネがアティウラの手を取って止めたが、それを振り払おうとする。


「止めませんよ。ですがほんの少しの間だけお待ちください……慈悲深き大地の女神よ……」


 そう言ってセレーネは“ステータスアップ”と“ブレス”を唱え彼女に付与した。

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