一方追いかけた側は
一方追いかけた側は
「あちゃぁ……完全に遅れたな」
俺達は村の直ぐ側、森の出口当たりに隠れて様子を伺っていた。
危険を承知で川沿いを走り、幸いなことに途中魔物や獣と遭遇することはなかったが、それでも彼らに追いつかなかった。
魔物達が村人を取り囲んでいるが、どうやらまだ大きな被害は出ていない様子。
助け出そうにも人質を取られているようなもので、さてどうしたものか。
「結局、村を襲うのが目的だった」
アティウラは武器を地面に置いて様子を伺いながらそう呟く。
「うん、そうだったみたい。考えすぎだったのかな」
森の中で長い武器は何かと目立つし、下手に光が反射した即見つかるので地面に転がしておくのだそうだ。
「あのさ、それよりもなんかまた臭いんだけど……」
デルが鼻を摘まみながらぼやく。
「仕方ないだろ」
俺達が潜んでいるのはすぐ近くにウンコを貯めておく、いわゆる肥だめの側だった。
ここならトロルや他の魔物もこちらの臭いに気付かないだろうって考えなんだけど……。
「とはいえ……確かにこれは臭い」
強烈な臭いに鼻がいかれそうだ。なんで昨日からウンコばかりなんだ。
「トロルと勇者以外は簡単だけど……」
アティウラには通常の魔物達はモノの数に入らないらしい。
「それならこの前みたいな眠りの魔法で全員眠らせるのはどうだろう。村人にかかっても眠らせるだけだし」
「あの“コーマ”は老人や小さい子供に使うと結構危険なの」
「え、なにそれ?」
“コーマ”とは睡眠系魔法の一種で、通常のスリープよりも深い眠りで気絶や昏倒を意味する。
通常のスリープと違って簡単に起きないという利点があるのだが……。
「なまじ眠りが深くなりすぎて二度と起きないってことがたまにあるって話なんだよ」
まじか……デルの説明を聞いているとなんか麻酔みたいだな。いや似たようなものかもしれないけど。
「だからって通常のスリープにすると駆け出しといっても勇者は魔法抵抗力が凄く高いからかからないだろうし、そうなると周りを起こすだろうし意味がなくなる」
「ぐ、そ、そうか……」
くそ、ケイオスめ……無駄に抵抗が高いとか腐っても勇者なんだよな。
「じゃあ先日ワイバーンを倒したマジックアローはどうだ?」
「それも無理、それでトロルを倒せても結局復活するし。それにもし複数発生パターンだったらレベル1の魔法だから威力が全然足りなくなる」
ぐぬぬ……。トロルもまた面倒な相手であった。
「そうか、ファイアーボールならいけるかもしれない」
「なんかいい名前が出て来たな。そうかそれなら!」
「でも、あんなところに使ったら周りに被害が出ちゃうかも」
典型的な魔法だが、かなり強力らしい。
「ファイアーショットよりもかるく数倍の威力があるし、それをいつも通りのMPをフルで使い切るから……計算上小さい方のトロルは確実に倒せるけど、大きい方も倒せないとしても回復出来ないほどの致命傷に持ち込めると思う」
「それは凄いな」
「でも凄い熱量が発生するから周辺にも被害が及ぶし、今使ったら村の人も火傷したり最悪一緒に燃えるかもしれない」
そんなに強力なのか!?
そうなると村人をある程度魔物達から引き離す必要がある。ってそれが出来たら苦労しないっつの。
とりあえずなんとかならないか木の裏に隠れながらコンソールを拡げ、この辺りの地形をよく見る。
この辺りは一番の高台になっている。村人達がある程度坂を下ってくれればファイアーボールの使用は可能かもしれない。
魔物達は村人を囲んでいるが実際の配置は穴だらけである。
元々彼らは夜行性で昼の行動は得意ではないはず、実際にあまり緊張感はなく覇気も感じられない。
基本的に命令を下しているのはオークとノールの二匹で此奴らを倒してトロルの気をこちらに引けば何とかなるか? いやでも二体同時の相手は厳しいか。一体だけでもデルに眠らせてもらう……うーん、それだとMP補給のタイミングが難しくなるし。
やはりデルにはファイアーボールに集中してもらおう。
セレーネには村人を逃がしたときに防御の壁を作ってもらって後はアティウラか。
すんすん、ぐっ……。それにしても臭いな……、これだけ臭いと鼻の良いヤツは大変そうだな。
「って、そうか。ワードサーチ“トロル、激臭”」
……やはりそうか。そうなるとこの臭い使えるな。
あの小さいトロルはこっちが話しかければ飛んでくるだろうから、上手いことやれば一発で行動不能にさせられるかもしれない。
アティウラにオークとノールを倒してもらい敵が浮き足だったところで、村人を逃がそう。
その間、俺はあの大きなトロルの意識をこちらに向かせればいい。
「よし……」
「作戦は決まりましたか?」
ああと、俺はセレーネににやっと返した。
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