どうしても身体が先に動く勇者様<Ⅱ>
「……これ本物……うそ、もしかして貴女!?」
「今は後です。これで多少動くのが軽くなると思いますので存分にお願いします」
「分かった。行ってきます……ダッシュ……」
「あれ、消えちゃいました……?」
剣技で飛びだしていったアティウラはほぼ瞬間で獣人を掴み上げるトロルのところに辿り着き、そのままの勢いで両手を切り落とした。
「……あう? う? うぎゃあ!!」
いきなり両腕を切り落とされて悲鳴を上げる小さいトロル。
「おっとっと……勢いが……って、なにこれ」
アティウラは最初は片腕を狙ったつもりだったが、神聖魔法の補助を受けた剣技は格別に相性が良く一撃目で片腕を簡単に斬り落としそのままの勢いでもう片方も斬り落とし、驚いていた。
「今すぐ全員逃げなさい!」
いきなり現れた人物にその場に居た全員が驚いていたため、逃げるように促されても直ぐには動けず躊躇いを見せる村人と獣人。
「ひっ……ひぃぃ!」
だがそこで旦那様がいの一番に逃げ出し、それを見て追うように全員が一気に逃げ始めた。
「くそ、なんだ? 何処から出て来た!? 一体何人居やがるんだ!?」
「大将! アンタはトロルから離れないでください! ゴブリン共は周りを警戒しろ!」
突如現れたアティウラに、オークとノールは冷静に命令を下し逃げていく人間を追いかけさせずに自分達の大将の防御を固めた。
「……冷静な対処」
アティウラは武器を構え直すと、大きなトロルは両手を使って自分の主を隠すように守っていた。
ゴブリンやコボルドはそのトロルの周りに集まっていく。
こいつrは防御が目的ではなくて、トロルの近くが一番安全だと考えているだけであろう。
「……め、メイドさん」
だが当ケイオスくんは配下の魔物達の行動などに全く気にしていないのかそれとも気付いていないのか惚れたかのようにアティウラのことをずっと見ていた。
「うがあぁあ!! うがぁあ!!」
そんな中で小さいトロルは命令など全く関係無しに両手を再生しながらアティウラに向かって威嚇のように吠え続けている。
(デル、今日の魔法なんだけど……、あ、あるんだ。分かった)
デルに念話を送ると、直ぐさま反応してくれた。最初の一言は“このバカ!”で“何の為の作戦だったのよ!”と続いたが、その後は俺が求める答えを教えてくれた。
(アティウラ、ごめん。助かった!)
「え、今の……?」
その後はアティウラに念話を送ったが、突然の“声”に周りをキョロキョロと見渡すが、俺は今だ少し離れていることから不思議そうに俺を見た。
(これは念話っていうの、頭で念じるだけで話が出来るから)
『こんな感じ?』
(そうそう)
『二人とこれで連絡を取っていたのね』
(頼みたいことがあるんだ。相手は防御を固めているから今の内にトロルの一体を戦闘不能にしておきたい……)
俺は自分のプランを簡潔に説明する。
『分かった』
それを合図にアティウラは攻撃を再開する。今度は小さいトロルの動きに合わせて、吠えようと顔を前に出した瞬間ポールウェポンで目を突いた。
「うぎゅぁああ!!」
直ぐさま引き抜いて、彼女はそのまま走り出す。
激しい痛みに悲鳴を上げるが小さいトロルは、逃げていくアティウラを見ると逆上して追いかける。
通常の脚ではトロルの方が速い。もちろんさっきの剣技を使えば速いだろうが、おそらくまだクールタイムで使えない。
なのでダメージを与えて痛がる間に距離を取ったのだろう。
アティウラが有る地点を飛び越えるとそこで脚を止める。
小さなトロルは相手の脚が止まったことに、ニヤリと笑顔になり一気に距離を詰めてきた。
「スネア!」
デルの詠唱無しの魔法が聞こえると、ヤツが向かう直ぐ前に穴が出来た。
それに気付くわけもないトロルはあっさりとその穴に足を取られ思い切り前のめりに転んだ。
そう、ただ倒れ込んだだけだが問題は、その転んだ先である。
そこは薄く土で埋めているが、その下には有機肥料……つまり肥だめ、要するにウンコがたっぷりと置かれている。そこへ頭から綺麗に飛び込んだのだった。
ぼちゃっ!!
なかなか嫌な音がした。
「うわぁ……」
頭から入ってしばらく止まっていたが直ぐに頭を上げるが、うわぁ……はっきり言ってモザイクレベルの惨状である。
「……ぶべっ! ぐあ……ん? すんすん……、ぐっ、ぐぎゃああああああ!!!」
最初は匂いに気付かなかったのだろう。だが直ぐに異変に気付き匂いを嗅いであまりの臭さに暴れ回るのだった。
予想通り鼻の良い彼らにとって、これはかなり辛いものなのだろ。
「こりゃひでえ……」
「悪魔よりも悪魔の所行をやってのけやがった」
オークとノールはその惨状にドン引きしていた。つか魔物に悪魔呼ばわりされるのかよ。ってまた悪魔扱いかよ。
「ぐがあああぁぁぁ!!」
「……え、ちょ、ちょっと!?」
小さいトロルはその場で暴れていたが、助けを求めたのかケイオスくんの方に向かって走り出した。
走っている間にウンコを撒き散らし、当然俺の方にも飛んでくる。
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