ウ○コまみれ

ウ○コまみれ

「……うー、超臭え」


 こうなるだろうと思って実は村で家畜の糞を分けていただいて瓶に詰めたものを持ってきていた。

 それを周囲にばらまいて俺の身体にも掛けた。


 トロルは嗅覚が良すぎるため周囲に大量の糞尿を撒かれると、全く鼻が利かなくなると調べは付いていたが確かに効果覿面だった。


「とはいえ、俺も臭すぎて辛いんだけどさ」


 さらに透明化の魔法を掛けてもらい木の上に登ってこっそりと相手の様子を伺っている。

 セレーネ達3人の方はシェルターに入ってもらい、入口は土に軽く埋めて隠してある。


 サーチでは相手の数や種族程度の限られた情報しか取得が出来ない。

 詳細な情報を得たければ直接目視にてディテクトで調べる必要がある。


 ちなみに俺が隠れている太い木の枝の直ぐ下、50cmもないところにトロルの頭がある。


 デカいな。こんなヤツの頭をどうやって吹っ飛ばすんだ? アティウラのポールウェポンでも直接届かないんじゃないか。

 こいつは体長は軽く4mは超えていて、もしかしたら5mあるかもしれない。


「それにしても……」


 とんでもなく衝撃的なものを見てしまった。

 魔物の一団の中心にいるのは人間だった。


 しかも悪者とかじゃなく冒険者……もっと正確には俺と同郷の地球人、つまり勇者がいた。


 こういうことをしても許されるのか。それとも何かしらのペナルティは受けた上での行動なのか。


 俺達を襲ってきたのがトロルは小さい方で、まだ幼い子供でしかも女の子であった……全然そう見えないけど。弱点を突かれて崖から落ちたが今は全くダメージがなさそうで、本当に嘘くさいったらねーわ。


 それにしても子供でも軽く3mを超えるとか。これで巨人種じゃないっていうんだから本物の巨人てのはどれほど大きいのやら。


 俺の真下の大きい方は雄で小さい方であの強さだってのに、こっちのは一体どうなるんだろうな。

 親子関係なのかはさすがにステータス上の情報には出てこないので分からない。


 二体のトロルはステータスに支配と書いてある。俺の帰属とは何が違うのか分からないが立ち位置などから考えるに、あの勇者が何かしらの方法でトロルを支配下に置いていると推察する。


 昨日邪魔をしてきた妙にリアクションのいいノールとオークの二匹は、コモン種だが変種というもので通常とは違うステータスを持つ。

 ワードサーチで調べたところ、変種は異常に発達した筋肉を持ったり人間並の知性を得たり一部のステータスが種族の限界を超えて生まれた存在だという。


 あの二匹はその中でとりわけ知性が高く、そういった種は往々にして同族に馴染めずソロで行動していることが多いとのこと。なるほど変わり者同士が連んでいるって感じか。


 ステータスに支配や帰属などは付いていない。つまり単純に利害関係が一致している仲間だということだ。


 残りのゴブリンとコボルドの方は突出した特徴はなく普通のコモン種でゴブリンが9体、コボルドが14体。

 此奴らは自分達よりも強い勇者やトロルに媚びへつらっているだけだろう。なので勇者かトロルをどうにかすれば蜘蛛の子を散らして逃げていくと思われる。


「そして勇者は……俺と同じで駆け出しか……名前はけい……ご……しゅう?」


 ステータスを見るとまだレベルが一桁だった。

 名前は、卿御洲と書いてある。

 装備は“チェーンソード”って、ああチェンソーの剣ね。


 うわっ、この前の勇者佐藤君の剣よりも数値が上じゃないか。って、筋力値が足りていないじゃないか。なにやってんだ?


「他に、何かヤバそうなアイテムは……なんだこの“unknown”てアイテムは……」


 今まで見たこともない反応に少しばかり首を捻る。ディテクト等の調べる魔法を回避するような方法なのだろうか。


「だったらアナライズでいけるか……な、弾かれた?」


 嘘だろ。どんな対象でもアナライズなら時間さえ掛ければ中身が見られるはずなのに……これは一体なんなんだ?


 けいごしゅう? という勇者をよく見てみると手に何か持っているが分かった。


「あれは……銃か?」


 いや銃にしては、なんというか古典的なSFに出て来そうな、光線銃みたいな形をしている。


「あれは武器なのか……、でも勇者の武器に銃なんてあるんだっけ?」


 いや、こいつはチェーンソードって武器を持っているじゃないか。

 勇者は例外はいくつかあるが基本的に一つしか武器をもらえない。


 それにあのチェーンソードは佐藤君の持つ長剣よりも数値が上なので、二つ目をもらえるとは思えない。


「じゃあ、あれはなんだ? 前時代の魔法アイテムとかなのか……」


 それにしてはデザインというか雰囲気がかなり違う。

 前時代はいわゆる古典的なファンタジー風の造形であり、あれはかなりかけ離れていてまるでオーパーツみたいだ。


「アンノウン、古典SF、オーパーツ……」


 存在しないはずのアイテム……。それってもしかして宇宙人のものとかじゃないだろうな。


「あー……」


 なんか分かった気がしたな。この世界では特殊な武具やアイテム、魔法等は全て登録がされていて、もし登録されていないのであれば本来存在してはいけないものであり、それが宇宙人の物品である可能性がかなり高い。


 それに彼奴らはUFOとかリトルグレイなど昔の古典的なSFデザインが随所に見られるので光線銃は十分合致しているもんな。


「マジか……じゃああれは相当やべえヤツじゃないのか」


 宇宙人のおっさんが強襲してきたときは小さなステッキみたいので簡単に爆発を起こしていたし、あれにも凄え攻撃力があるとか……。

 もしかしてトロルを支配しているアイテムだったりするのかも。


「いずれにせよあれは要注意だな……」


「あれ?」


 光線銃を見ようと身を乗り出していたことで木を少しだけ揺らしてしまい、勇者がそれに気付いて上を向いた。

 やべっ! 気付かれたかもしれないと俺は口を押さえて身動きしないようにする。


「どうかしたんですかい?」


「……う、うん、気のせい」


「それじゃあ、この後はどうしやす?」


「きょ、拠点の方を目指そう」


 拠点? 勇者と魔物達はそう言ってやって来た方向と逆に戻るように去って行った。

 サーチで百mほど離れたところで俺は呼吸を再開する。


「ぶはっ! はぁはぁ……ぐぇえぇ、凄え臭え!」


 呼吸を再開したところで動物の糞の臭いをもろに嗅いでしまい吐きそうだった。

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