ゆっくり過ごせそう
ゆっくり過ごせそう<Ⅰ>
「それではこの部屋を使ってくださいね」
カトリナの案内で通された部屋はドームの内壁沿いの建物で、そこだけはサイズが普通の人間サイズになっていて間取りや天井が他よりも大きかった。
しかし他の部屋は倉庫になっているので一部屋しか用意出来ないとのことで二人で使うことになった。
「いいの?」
「今更ではありませんか」
さっき思わず手を取って歩き出してからセレーネの機嫌はよかった。
「久しぶりのベッドで眠れるのですから一人部屋だなんて贅沢は言えませんよ」
「それはそうだけどさ……」
この部屋はドームの天井と同じ魔法の明かりのカンテラが置いてあり、ロウソクや松明に比べるとかなり明るかった。
部屋自体は簡素な造りで、壁も天井もコンクリートのような質感剥き出しで無機質だった。
さすがにこれでは床で寝ると冷たそうだ。
そしてベッドは十分な広さだった……だがそこに一つ問題があった。
それは一つしかないということ。
「本当に一緒に寝るの?」
「もしかして、またわたくしが臭かったりしますか」
まだ根に持っているのね。
「全く気にならないよ。それにこれから温泉に入れるんだし大丈夫だろ」
「やっぱり少し臭うのですね……あうー、勇者様が身綺麗にしすぎなんですよ」
「そういう意味じゃないって、セレーネは全然臭くないよ」
そりゃ数日冒険に出てりゃ、誰だって臭いは出るしな。
「本当ですか?」
「気にしすぎだって、そもそも男の俺の方が臭いだろ」
「そんなことありません、勇者様はいつも良い匂いがしますもの」
「まじで?」
そう言うとセレーネは俺の側に来てそっと匂いを嗅ぎ始めた。
「ほら……、良い匂い」
「は、恥ずかしいから止めてよ」
「んふふっ……」
なかなか離れようとしないセレーネだった。
部屋でしばらく待っているとカトリナが呼びに来たので案内をしてもらう。
ドームは外の明るさと同じになっているらしく照明がかなり暗くなっていて、みんな寝ているのかかなり静かだった。
族長とデルはMPの使いすぎで疲れて既に休んでいるらしい、それはセレーネも同じらしく俺よりも疲れている様子だった。
やはり頂き物でも多くのMPを消費すると身体に負担があるみたいだった。
「二人とも魔法をいっぱい使ったからね」
「そのわりにカトリナは元気だな」
「まーねーっ」
無邪気に笑うカトリナ。何とも可愛らしい。
「そういえば温泉は、男女で別れていたりするの?」
「え、一つだけだけど……」
「だとしたら一人ずつ入った方が良いか?」
「それだとカトリナさんにお手数をかけすぎではないでしょうか」
「う……」
「じゃあセレーネだけ入って来なよ。俺は明日入るから」
「今日の功労者を差し置いて先に入るのは気が引けますし、わたくしも早く入って休みたいです」
「それはそうだけど」
「それに今夜は同じベッドで眠りますから、一緒に入って出た方が寝るタイミングも同じで余計な気を遣わなくていいのではないでしょうか」
何だろうこの子。俺は男だぞ? 男なんだぞ? なのに一緒に入るってのか……確かに裸を晒した間柄だけど……だからっていいのか。いいのかよ!?
とはいえ、セレーネも結構頑固者だし一度言ったら聞かないしな。
「……分かったよ。セレーネも疲れているだろうし時間が勿体ないし一緒に入ろう」
「はいっ!」
「ではでは、こちらですよー」
ドームの内壁に洞窟の入口があり下り階段になっていた。
そこを下ると奥は鍾乳洞になっていて、少し歩いたところに泉のような場所が、いや凄い湿度で、これが温泉なのか。
「ここにお湯がずーっと涌いていたんだけど、少し前の地震で亀裂が入ってお湯が抜けるようになっちゃって、族長が直したからもう大丈夫」
確かに、これは雰囲気もあって素晴らしい。
それに久々のお風呂に入れることで、少しテンションが上がる。
「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ~。私の方は疲れちゃったから先に眠るね~」
「お疲れさまでした」
「おつかれ、カトリナさん」
「そんなさん付けなんて、普通にカトリナって呼んでよ」
「え、あ、そう。じゃあお疲れカトリナ」
「はーい勇者さん、セレーネさん、お休みなさーい」
カトリナは眠そうに戻っていった。
結構無理して起きていたみたいだな。
「さてと早速入るか……の、前に……」
万能雑嚢からあるものを取り出す。
「よいしょっと」
ガラスのボトルを3本ほど出した。
「それは一体?」
「これは、身体と髪を洗うためのもの」
日本人の勇者は取り分け綺麗好きで、あまりにも要望が多いとのことで仕方なく宇宙人が用意して無料で配布している。
俺も雑嚢に一年は使える分をもらって入れてある。足りなくなったら再度配布されるらしい。
「なんだか凄いですね……あまり見たことがない色をしています」
セレーネは透明なボトルの中身を不思議そうに見ていた。
「そうかもしれないな」
「では勇者様、あんまり遅くなると眠くなってきますし早く入りましょう!」
「あ、ちょ、お、おい!?」
今度は彼女に手を引っ張られ連れて行かれるのだった。
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