ゆっくり過ごせそう<Ⅱ>

 だから男女が一緒に入るのが正しいのか!?

 ……いや我が祖国には混浴なる文化がありましたね。


 温泉とはいっても、洞窟にただお湯が張っているだけなので他に何もない。

 明かりはドームの天井と同じと思われる魔法の明かりのランタンだけだが少し暗いが雰囲気はあっていいかもしれない。


「さてと……」


 俺がどうするか迷っていると、セレーネは隣で身に着けているアクセサリなどをどんどん外していく。


「セレーネって結構アクセサリとか好きだよね」


「そ、そうでしょうか。自分では普通だと思っていますけど……もしかして何か気になりますか?」


「ううん、意外とおしゃれだなと思って」


 指輪にブレスレット、チョーカーやピアスなどを外していく。

 だが首にかけているネックレスのホーリーシンボルだけは外さなかった。


 俺の方もさすがに観念して靴などを脱ぎ出す。

 まあ、お互いに裸は見ているんだけどさ……でも改めてとなるとかなり羞恥心が。


 さすがに一緒に脱衣というのも恥ずかしいので、男の俺が先に脱いで奥に行けばいいか。


「じゃあさ、俺が先に脱い……」


 そう提案しようとしたらセレーネは目の前で何の躊躇いもなく、するするするっと一気に服を脱いでいく。


「わっ!?」


「はいっ? ど、どうかなさいましたか」


「い、いや、もう脱ぐの……」


「勇者様は服を着たままお風呂は入るのが作法なのですか?」


 不思議そうな顔のセレーネ。彼女は脱いだ服などを軽く畳んで適当な岩の上に置いていく。


「い、いや服は脱ぐけど……」


 祭服は結構な重ね着らしく、セレーネは何枚も脱いでいて大変そうだった。


「……あ、あの勇者様」


「えっ……、な、なに?」


「一緒にお風呂に入るので見えてしまうのはある程度仕方がないことではありますが、さすがに脱いでいる姿をずっと見られるのは……」


「あ、ご、ごめん……」


「いえ、勇者様が……どうしても見たいと仰るのでしたら構いませんけど」


「え、いいの?」


「……ほ、本当に、み、見ちゃいます? で、出来れば……洗った後で……」


「あ、う、うん……」


 うんてなんだよ!?

 とにかく、俺はセレーネに背を向けて服を脱ぐことにする。


「よいしょっと……、ふう……、すんすん……うっ、さすがにちょっと臭うかも……」


 何か言ってるが見るわけにいかないし気にしてはいけない。

 俺も自分の服の匂いを嗅ぐと意外と臭い……着たままで丸二日だからそんなもんか。


 素っ裸になった俺は振り向くと、そこには衣服を全て脱いだセレーネがタオルのような薄い一枚の布で大事な部分を隠して立っていた。


「お、おおう……」


 なんだか神々しさを感じる……裸を見たのは初めてではないが、あのときはベッドの上で暗かったのでよく見えなかったから……本当にすげえ綺麗だ。


「あ、あの……勇者様、せめて前だけは隠していただけないでしょうか」


「え……お、おおう!」


 慌てて置いてあった同じ白い薄い布で前を隠す。


「それでは入りましょうっ」


 嬉しそうに温泉に向かっていくセレーネ。


「うわっ!?」


 隠している布は薄くて軽いので、歩き出したときに揺れてちらっとおっぱいが見えた。

 彼女の後ろに付いていくが、そのおかげで可愛らしくも大きめのお尻がふりふりしているのが気になってしょうがない。


 温泉は洞窟内の池みたいに見えるが意外に広く銭湯の数倍は軽くありそうだな。

 これなら彼女から離れれば変に見ることや触れることもなく入れそうだな。


 お湯に付かないように髪の毛をアップにするセレーネ。

 綺麗な背中やうなじが何ともいえない色気を醸し出していた。


 ふむ、こういう感じもありだな。


 アップにするのが終わると湯船にそのまま入ろうとして俺はその行動に一瞬驚き、行儀が悪いと言葉が出かけた。

 彼女が行儀の悪い行動なんてするわけがない、だからこれで合っているんだろう。

 こういうのは郷に入っては郷に従え……なかった。


 やはり生粋の日本人である。身体を洗う前に湯船に入るなどさすがに出来ない。

 俺は温泉の縁で桶にお湯を汲むと支給されたたシャンプーやソープらしきモノで洗うことにする。


 とりあえず渡された瓶を開けて匂いを嗅いでみる。

 確かにシャンプーやボディソープの匂いがする。


 まずは頭から洗うか。

 当然シャワーなどないので桶にお湯を汲んで頭にかける。


 温度はかなり適温より少しだけ温いかな。でもまあ熱すぎないのはいい感じ。


 お湯は少し濁っているかな。これならセレーネと入っても大事な部分は見えないので視線とかは助かる。


 ともかく頭を洗う。リトルグレイや女神の居たところに風呂やシャワーはなくて、よく分からない風を当てるクリーニング方法だったので物理的なお湯は久しぶりで気持ちが良い。


「ふう……、え、どうかしたの?」


 セレーネが不思議そうにこちらを見ていた。


「いえ、なんだか楽しそうに見えたので」


「楽しいのか……、セレーネも使ってみる?」


「あのそれは勇者様用に支給されたものみたいですから、わたくしには過ぎたものかと……」


 そんなことはないんだけど……まあ無理強いしても仕方ないか。

 もしかしたら奇異に見えているのかもしれないし。

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