ここにも魔王軍

ここにも魔王軍

「なに、ヘルナイトが負けて魔王城に逃げ帰っただと!?」


 魔物の森にはいくつかの魔王軍の部隊が派遣されており、その中の一つの部隊が森の南方で展開していた。

 彼らはこれから妖精の一族との戦いが始まる直前であった。


 そこにヘルナイトが勇者との戦いに負けたという一報が入ったのだった。


「……わ、我らは如何致しましょう」


 ヘルナイトほどの実力者を負かした勇者が近くにいると分かり、兵卒達に少なからず動揺が見られた。


「ふんっ! 気にすることはない! 奴は最近少しばかり魔王様の覚えがいいからといい気になって油断が生じたのだ」


 銀色の甲冑を身に纏った髭を蓄えた男が鼓舞するように兵士達に言い聞かせた。


「ここで魔王様にいいところを見せておけば、我らはもっと褒美をいただけるはずだ! 皆の者心してかかれ!」


 ひゅー……。


「妖精族を襲って財宝を奪い! 女は奴隷に! 男は食糧にするのだ! 好きなだけ出来……」


 ひゅー……。


「……これは一体何の音だ?」


「う、上、上ですっ!」


「上?」


 兵士の言うように上空を見ると銀色の皿のような物体が落ちてくるのが見えた。


「あれは一体……なんだ?」


 どうやら、それはこちらへ向かって落ちてきている様子だった。


「あー! だめー! お、落ちるー!! めーでー!!」


 サリの乗った一人乗りのUFOが操作を失い、きりもみ状態で落下していた。


「な!? あ、新しい兵器なのか!? うわっ! うわーー!」


 どがしゃーん!!!


 避ける間もなく、そのまま激しくぶつかる両者。

 銀色の甲冑は衝撃で勢いよく吹っ飛んでいき、UFOは斜めに地面に刺さるように不時着をした。


「あいたたた……、も、もうなんなの……」


 UFOのセーフティ装置のおかげでサリは大した怪我はなかったがそれでも着陸の衝撃は激しく一瞬息苦しくなった。

 空気がな無くなったのかと勘違いして慌てて外に出る。


「はぁはぁ……ふう……あ、あれ……?」


 不時着した場所はよりにもよって魔物達が集まっていた。


「え、えっと……」


 魔物達はサリを見て……。


「うぎゃー!! ぎゃー! ぎやぁああ!!」


 空から降ってきた恐ろしい何かだと悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「きゃー!!」


 サリの方もそれに驚いて悲鳴を上げる。


「ぎゃあああ! ふぎゃああ!」


「きゃー! きゃー! きゃー!」


 魔物達は空から降ってくるものを極端に怖がる性質がある。

 彼らにとっての天敵、ワイバーンやグリフォン、更にドラゴンなどが空から襲ってくることや、神の力は天から降ってくる信じているからもある。


 銀色の皿が上空から攻撃してきた挙げ句、中から人が出て来たので殺されると思って慌てて逃げ出したのであった。


「きゃー! きゃー……、あ、あれ?」


 気がついたら、周りには誰も居なかった。


「もしかしてサリ様が怖くて逃げたのか!? ……いやいやさすがにそんなわけないって!」


 一人でボケで突っ込んでみたが実はその通りだった。

 これで誰も知らないところでサリ様は魔王軍の侵攻を防いだのであった。

 と、同時に魔王を敵に回しもしたが。


「え、ちょ!? いくらサリ様でも魔王を敵に回したくはないぞ!?」


 セリフ以外に突っ込むのはお止めください。


「あ、ごめんなさい……。じゃなくて! ホントに本当に、魔王を敵に回してしまったのか!?」


 ………………。


「ちょー! 何か言ってよ! なんで黙りなの!?」


 ………………。


「ウソでしょ!? ウソだと言ってよ!!」


 さて、サリの今度はどうなるのか!


「ぎゃー! このまま場面転換しないでってばあ!!」

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