離脱完了

離脱完了

「はぁ……、やってしまった」


 完全に人間側の敵になってしまった。

 ドームの近くまでセレーネと共に辿り着くとカトリナとデルが待っていた。


「大丈夫だった?」


「まあなんとか、ここもあんまり安全とは言えないからさっさと登ろうぜ」


「でもその前に……何が起きたか詳しく話してくれるよね」


「え……」


「一応、さ、さ、さっきの僕、は、初めてだったんだけ……ど」


「え、あ、嘘……」


「うるっさい! どうせ里じゃノッポって言われてて、モテないよ!」


 ……しまったな、そういう意味じゃなかったんだけど思わず声に出してしまった。


「あ、後でちゃんと説明するから、今はとにかく安全な場所まで戻ろうよ」


「きっ!」


「ほらほら、まだ追っ手が来るかもしれないし、さっさと戻るべきだよ」


 カトリナがフォローしてくれる。


「わ、分かった……よ」


「じゃあ提案が二つ。俺におんぶされるか。もう一度キスをするか」


「ふっざけんな!」


「ですよねー」


「……おんぶ」


「了解」


 本日二度目のおんぶとなった。


「よいしょっと」


「うわぁ……、勇者さんて凄いんですね」


「え、何が?」


「だってヴェンデルを軽々と持ち上げているから」


「悪かったわね……里じゃ僕が一番重いんだよ」


「え、そうなのか? 俺からすればデルなんてメチャクチャ軽い方だぞ」


「え、そう……なの?」


 驚いた顔をするデル。

 確かに他の連中より頭一つと大きいんだから重いのは仕方がないが、それでも俺からすればかなり軽いほうである。

 むしろこの軽さでよくもまあ、あれだけの鋭い蹴りとか出来るよ。


「もう……そうやってまた遠回しにわたくしが重いって言いたいんですね」


「だからどうしてそうなるんだよ?」


 やれやれ、あちらを立てればこちらが立たずだった。


「そういえば、ワイバーンに襲われていた人達はどうなったの?」


「ああ、そうだった。うん、おかげさまで全員無事だよっ!」


 カトリナが嬉しそうに教えてくれる。


「そうか、それなら良かった」


「うん、本当にありがとう。おかげで父も弟も無事だったよ。うう……」


 俺の質問にカトリナが思い出して泣き出しそうな顔をしていた。


「あの……私は、勇者さんにどれだけ感謝をすればいいんだろう」


「気にするなって、俺が好きでやっただけだから」


「でもでも……、なんでもいいから……」


 そう言われてもなぁ


「なんでもいいから感謝させてよ」


 背中のデルからも頼まれてしまう。


「そうか……、だったら何か考えておくよ」


「うんっ、なんでも構わないよー」


「そうか、なんでもか……」


「スケベ」


 背後のデルがぼそっと言った。


「なんでだよ!?」


「ふんっ!」

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