人質は聖女様
人質は聖女様
「隊長!!」
「ここだ!!」
少し遠くで兵士達の声が聞こえると隊長が叫んだ。
複数の足音が聞こえる。結構な人数のようだった。
「あ、聖女様! 勇者殿!」
「ぬっ!? 敵だ! 敵と勇者様と隊長が戦っておられるぞ!」
「そう見えちゃいますよね……」
セレーネが何とも困った顔で俺に囁いた。それにしても嫌なタイミングで来たな。
ここで走って逃げようにもデルを抱えてというのは難しい。
「ま、待て! 待て!!」
兵士は20名ほどで隊長が兵士達を止めに入る。
カトリナとデルを俺の背後に回して兵士達を牽制する。
どうするか……。
間欠泉にタイミング良く入って逃げたとして、追いかけてきた兵士達が熱湯や蒸気を喰らうのはさすがにまずい。
それにもし追いつかれでもしたら里の位置がバレてしまうかもしれない。
「落ち着け!」
俺と兵士達が対峙していると隊長が間に割って入ってきた。
「隊長!? ですが、あの者達は敵ではありませんか!」
「そうですよ。隊長がいきなり馬で先に行って、その後空にもっと大きな影が落ちていくのが見えて、本当に驚いたんですよ!」
「それは悪かった。俺も少し独断が過ぎた」
「それであのワイバーンは……」
「あっち」
俺が指を指す。
「な!? こ、これは……まさか……勇者殿が倒したのですか?」
「え? いやぁ……えーっと、どっちかというと隊長さんがかな」
「なんと!? 隊長がですか!?」
「な!?」
「最後の一突きは素晴らしかった」
嘘は言っていない。あの一撃のおかげで倒せたのは間違いないわけだし。
「まだ息があるかもしれないから、危険なので近づかないでね」
「これだけの大物を……、さすが隊長です!」
「いやまて、俺だけの力ではないから」
「たとえ勇者殿のご助力があったとしても、我らの隊長は本物の英雄だ!」
「おいっ、このワイバーンをけしかけてきたのは貴様達の仕業か!」
兵士の一部が、デルとカトリナの方に矛先を向ける。
「無茶なことを言うな。彼女たちは関係ない」
「そうだ! 止めろ、ワイバーンとの戦いで共闘したのだ!」
隊長も俺の肩を持ってくれる。
「ですが……聖女様、危のうございます。さあこちらへ!」
悪い奴らではないんだろうけど……兵士ってのはどうしてこう、人の話を聞かないんだ?
兵士の数が多いので全員を制止しきれそうにない。
ああもう仕方がない。こうなったらこれしかない!
「故合って俺は、彼女たちの側に付くことにした! 聖女は人質にさせてもらうぞ!」
直ぐ側にいたセレーネを俺の方に抱き寄せた。
「わわ? え、あの、勇者様?」
「悪い、嘘をつくのは苦手だと思うけど少しの間だけ、口裏合わせてくれ」
「あーれー、たすけてー……」
直ぐに俺の意図を察してくれたが、思い切り芝居がかった声を出していた。これじゃさすがにバレるんじゃ……。
そしてそう言いながらセレーネは俺にしっかりと抱きついてきた。
「な、なな!? 勇者様どうなさったのですか!?」
「うるさい! それ以上近づいたら……」
「近づいたら?」
あ……しまった。俺って武器がないじゃん。
「え、えーと……そ、そうだ。聖女様が恥ずかしい目に遭うぞ!」
「ええ!? わたくしが恥ずかしい目に遭うんですか!?」
驚きの声をあげる彼女の祭服のスカートを少しだけめくり上げると、生脚がチラリと見えた。
「な、なんてことを! 聖女様を辱めるなど、神を辱めるに等しい行為なのですぞ!」
そう言いながらその兵士はセレーネの生脚から目を離せないでいる。
他の兵士は同じように見てたり、顔を横に向けたり手で顔を隠したりしている。
「カトリナ、今の内にデルを連れて行け!」
「あ、そうだね。ほらヴェンデル」
「う、うん……」
さすがに抜け道は使わずカトリナはデルを連れて間欠泉が吹き出す狭い道を抜けていく。
蒸気にも熱湯にも当たらない場所をよく知っているな。
「“ディテクト”!」
次は2分後か……。
俺はセレーネを抱きかかえながら、ゆっくりと下がっていく。
「あーれーぇ……」
「ちょ、ちょっとセレーネ歩きづらいって」
「いーやー! 勇者様ご無体ですぅ!」
なんとも素晴らしいほどの大根役者である。
「ひ、卑怯な!」
兵士達は近づいてこようとする。
「おっと、いいのか。俺はワイバーンを一撃で弱らせるほどの攻撃が可能なんだぞ」
「くっ!」
「迂闊に近づくと簡単に死ぬかもしれないから動かない方が良い」
悔しそうに距離を取って包囲をしようとしてくる。
だが、こっちはそろそろ時間だ。
「いいか! もしこれ以上戦うというのならワイトやワイバーンをあっさりと倒せる、この勇者が相手になる! その覚悟がないのなら諦めろ! それでは諸君さらばだ!」
下がるところまで下がると一気に走り出す。
最後にやれやれといった呆れ顔をしている隊長さんの方に、軽く謝っておいた。
ぶしゅー!!
間欠泉が吹き出し周囲が霧状になり視界が悪くなると同時に離脱をするのだった。
「くそ! 隊長、追いますか!?」
「今は止めておけ……我らの勝てる相手ではない。今は一旦戻るのだ」
「し、しかし……いえ、ははっ!」
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