ドームの中へ<Ⅳ>

「ああ、そういえばこっちの軍監を襲ったのはどうして?」


「襲った? 人間を? ……ああ、あのときはカトレアが鉱毒の混じった水を飲もうとしているから注意しただけじゃん」


「そうそう、あそこの湧き水を飲もうとしている人が居たから、鉱物が混じっているから飲むと危ないよって教えたのに凄く驚いて怯えるんだもん、こんなに可愛いのに魔物みたいな扱いで失礼しちゃうよね」


「僕は止めたけどね。人間と関わったら碌なことにならないって」


「あーじゃあ、あれで怒っちゃったのかな」


 さすがにそうじゃないけどね。


「さあ、でも次の日にきっと攻めてくるって話は合っていたじゃない」


 確かにそうですね……。


「だよねー、ヴェンデルの予想通りに居たから簡単な奇襲だったよねー」


「まあね」


 デルはなんだか少しだけ得意げな顔をした。


「確かに奇襲が成功なのは分かった。でも上手く出来たからってその後が迂闊すぎだろ、俺達にあんな姿を見られたし」


「な!?」


「ぷ……、ぷぷっ……」


「ちょ、なんでカトリナが笑うのよ!」


「だ、だって、ヴェンデルはいつも私たちにうるさいくらい気をつけろって言ってたのに、自分はおしっこするのに必死で、近くに人が居るのに気付かなかったんでしょ……しかも、凄く見られたって話だし……ぷぷぷ」


「ああ、がっちり見てしまったんだ」


「見ちゃったんだ!!」


 話にがっつりと食い付いてくるカトリナだった。


「ば、ばかぁ! 余計なことを言うなっ!!」


 デルの正拳が飛んでくるが、テーブル越しでは彼女のリーチでは全く届かない。


「おっと、すまんすまん。つまりそういった油断は危険だと言いたかっただけだよ」


「ふんっ!」


 顔を真っ赤にして怒るデル。

 うーん、なんかこの辺りは可愛いな。

 あかんな、もっと弄りたくなってくる……。


「あともう一つだけ単刀直入で聞きたいんだけど、ネクロマンサーってお友達だったりする?」


「ふざけんな!!」


「おわ!?」


 弄られてふて腐れていたデルが今度は立ち上がって怒鳴った。


「僕達があんな下劣な術を使うわけがないだろ!」


「そうだろうね。まあ落ち着いて」


 鼻息の荒いデルをなだめすかそうとする。


「わたくし共はつい先日アンデッドとネクロマンサーの襲撃を受けてたのです。この勇者様のおかげで捕まえることができ、ここが魔王軍の根城の一つだと証言をしたのです」


「な!? バカなことを言うな! 僕達は魔王どころか人間とだって極力付き合わないようにしているっていうのに!」


「そうだよ! こんなに人里から離れてるのに!」


 紋様族の二人は頭を抱えだした。

 これは完全に冤罪を着せられてると思っている様子。


「あのさ、例えば何度も襲撃をされた恨みから、こっそり手引きしているのが居たりとかは……」


 どんっ!

 デルが思い切りテーブルを叩いた。


「僕達は見ての通り日々生きるのだって大変なんだ! あの惨状を見ただろ。それなのに人間にちょっかいを出そうなんて暇が何処にあるって言うんだ!」


「そうですよー、いくら私でも怒っちゃいますよー!」


 まあそう、だろうな。

 ここには死体の腐臭や魔物達の臭いも気配すらない。


 元より人間が憎かったら、俺とセレーネがここに来たときにもっと酷い扱いをするのが普通だろう。

 それ以前にあの軍監は殺されていたかもしれないし、鉱毒の水を飲んで苦しむ姿を見て笑っていたかもしれない。


「少なくとも君等を知った俺は違うと思ってる」


「わたくしもそう思っています」


「じゃ、じゃあ、兵を引いてくれるの?」


 期待に満ちた目になって聞いてくるデル。


「そこはすまん、俺にはなんの権限もないんだ」


「はあ!? だったらあんた等はここまで何しに来たんだ!?」


「一応、今回の件を何事もなく平和に終わらせたいって思っているんだけどさ」


「だから仕掛けてきたのは人間の方じゃないか」


「まあ、そうなんだけどね」


「じゃあ、どうするつもりなのよ?」


「そこは今、模索中なんだ」


「はあぁ!?」


 呆れてものも言えないといったかんじのデル。


「申し訳ないな、なんかぬか喜びさせて」


「別に……、本当に戦いが回避出来るのなら協力は惜しまないけど」


 炭酸水をぐいっと飲むデル。


「まずは彼奴らの本当の狙いが知りたい。今回の件なんだか裏があるとしか思えない」


「だったらそれこそ、あっちの兵士にでも話を聞けば良いじゃない」


「うーん、彼らは本当に魔王軍との関連があると思っているし、それに命令とあらば真偽を問わず従うのが軍人だし」


「なにそれ、人間てバカなの?」


 少し前までそういう生き方をしていたのでデルの言葉は意外と胸にきた。


「ま、まあバカかどうかはともかく、そうすることで領土を拡大していったってのは分かるよな」


「ぐっ……、それでまた僕たち一族が奪われる側になるってこと」


「あ、ごめん、そこは今話すべことじゃないよな。それで君たちが狙われるなにか理由とか心当たりはない?」


 過去数度、紋様族は人間に滅ぼされそうになっている。

 一体何が原因なのだろうか。

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