ドームの中へ<Ⅲ>

「えっと、他の人達は?」


「こう見えても、彼女は族長の補佐をしている一人で偉いのよ」


「えっへん、そーなんです! あんまりそう見えなくて申し訳ないけどね」


 そうか、それなりの地位の子なのか。

 やっぱり見た目で判断が難しい。


「こちらこそ申し訳ない。何分俺達の価値観だと年齢を召した方が上に立つのが普通だからさ」


「だから、彼女はこう見えても凄い年齢なんだけど」


 え、まじで?


「ちょ、ちょっと、おばさん扱いは止めてよぉ!」


「そうなのですか!?」


 俺以上に驚くセレーネ。


「彼女は少なくともあなた達の倍はいってるから」


「ええ!?」


 見た目も仕草も話し方も、全くそんなに年上には見えない。


「ちなみに僕だって君たちよりも年上なんだから」


「まじか!?」


「そうなのですか!?」


「なんでカトリナより僕の方が驚くんだよ!!」


「いやだって……」


「も、申し訳ありません」


 二人して謝る。しかし、こんな生意気なのが年上とかどうなのか。

 あ、いや多分実年齢は俺の方が上だろうけど。


「そうだったのかぁ……」


「全くもう……、話が全然進まないじゃない」


「おっと済まない。何かとカルチャーショックが多くて」


「それでアンタ等は戦争を始めるための使者ってことなの?」


「いや、俺の独断であって彼ら軍隊とはあんまり関係ない」


「だったら何をしに来たの」


「出来る限り戦いを回避するためになんとかしたいと思って……」


「はあ? 回避したいんだったら僕達じゃなくて人間の方を説得すればいいじゃない。こっちに来てどうするのよ!」


 意味が分からないとばかりにデルの声が少し大きくなる。


「大体、僕たちが何をしたというんだ!」


 憤慨する彼女は、やはり人間が攻めてくることに心当たりはなさそうだった。


「俺はこの件のことをほとんど分かってなくて出来ればその辺りの話をしたいんだ」


「ちょっと意味がわかんないんですけど」


「少し時間がかかるけど……」


 そう言って、何が起きたかを俺は話し始めた。



「……その話を信じろっていうの?」


「まあ……」


 にわかには信じられないと言った顔のデルだった。

 俺が勇者として連れて来られて色々とあって天界に戻されまた舞い戻ってきた。

 宇宙人関係は言えないのでそこら辺は少し変えて話した。


「あの強そうな騎士を相手に言葉だけで追い返したなんてとても信じられない」


「でも勇者さんの話に違和感はないと思うよ。正面から戦って打ち勝てる存在なんてこの辺りに居るとは思えないし」


 あの変態騎士はやはり相当強いみたいだな。

 確かにそういう意味で相手が変態で本当に助かった。


「今更だけど魔王との繋がりは完全に否定させてもらうから」


「その件に関しては、俺もそうだと思ってる」


 このドーム内に全く魔物を見ないし雰囲気も感じないし何より臭いで分かる。ノールはかなり臭かったし。


 それに魔王軍の協力をしているのなら、あの森に残されたノール達がここを目指していてもおかしくはないはず。洞窟に隠れて同胞であるはずのコボルドを殺して喰っていた意味が分からん。

 そこまで頭が賢くないってのはあるかもしれないが……。


 やはりネクロマンサーのウソでここまで来たってことなのか?

 それとも人間達には他の目的でもあるのか……。


「どうせ、また前みたいにあなた達の身勝手な理由で攻めてきたんでしょう」


「え、前みたいって……君達は前にも攻められたことがあるのか?」


「うん、あるよー。前は10数年位だったかな、その頃はここじゃなくて森に里があったんだけどね」


「森に? ここから徒歩で半日くらいの距離に開けた場所があったけどもしかして……」


「距離的には合ってるかな、もしかしたらそこだったかもねー」


「あのときは僕も子供だったからあんまり分かっていないけど大変な事が起きたことだけは憶えてるよ」


「そうだねー、ある日突然私たちが疫病をばらまいた犯人だって人間達が攻めてきたんだよ」


「それってもしかして妖精の呪い病の話でしょうか」


 妖精の呪い? セレーネは何かを知っているようだった。


「そっちの詳しい話はよく分かんないけど、私たちは着の身着のまま慌ててここに逃げたんだよー」


「この場所を用意していたってことなのか?」


「うーんとね人間は過去に今回を含めると4回攻めてきているんだよ。だから族長はこうなることを踏まえて移住出来そうな場所をあらかじめ探しておいたんだよ」


「そんな!?」


 今日一番の驚きの声を上げたセレーネ。


「た、確かに……過去3回ほど、国では疫病や謎の呪いがある度にその原因となった対象を討伐したって話はありましたけど……それがあなた方だったと? で、でも何故……」


 セレーネは何か思い当たることがあるのだろうか。

 色々と考えているみたいだが答えを出せずにいるようだった。


 うーん、どうもこの話には裏側がありそうだな。

 一体どこまでがそうなんだ?


 隊長さんや副長さんとかは如何にも武人然として真面目な人だったし、きっとそういう裏の事情とかは知らされていないんだろう。

 てことはあの隊のどこかに、本当の目的を知っているヤツがいるって感じか。


 あ、いた……あの軍監、そういえば魔王軍を追い払ったのに、無理してでも紋様族を攻めろって主張していたよな。

 やっぱり、ここは一度戻って隊長さん達と話をした方がいいかもしれない。

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