結局進軍<Ⅲ>

「くそ、このままだと見失う……そうだ。俺の剣なら防御の障壁があるから耐えられるはず……」


 佐藤君は剣を盾のように持つと、間欠泉が吹き出す道を突っ切ろうと走り出す。


「や、止めとけって!」


「うるさい! 俺なら少しくらいダメージを受けてもポーションで回復すればいい!」


 間欠泉が彼の間近で吹き出すがさほどのダメージはなさそうに走り抜けた。

 剣に防御力まで備わっているのかよ。


「よしっ! 待っていやがれ!」


 問題ないと一気に走り抜けようとした矢先……。


 ぶしゅー!


 彼の背後に間欠泉が斜めに吹き出して直撃した。


「ぎゃあ!?」


 そしてよりにもよってそれは彼のお尻に当たったのだった。


「あー……」


 おそらくあの剣の持ち方からして後ろ側の防御それほどでもなかったんだろう。

 間欠泉は相当熱かったらしく、走る脚がその場で止まりお尻を触って確認している。


「熱っ! 熱っ! あちいっぃぃ!!」


 相当熱いらしく股を開いて、冷やそうとしているのだろうか、お尻の辺りを叩いていた。


「や、やばい、ケツが、ケツが燃えた!! 燃えた!!」


 熱さで混乱したのか。燃えたと思っているらしい。

 ぴょんぴょんと跳びはねている。


「あ、そこ! そこは!」


 セレーネに何か気付いて叫ぶが、彼には全く届いていなかった。


 ぶしゅー!


「な!? う、ウソだろ!? うわぁああ!!」


 岩の谷から真横に間欠泉が吹き出し、佐藤君はそれをもろに身体で受けて吹っ飛んでしまう。


「うそん……」


 どこかのバラエティ番組じゃないんだからと突っ込みたくなる光景だった。

 そして彼の不幸は終わらず、ボコボコと泡を吹き出す温泉に飛び込む形となる。


「……熱いぃぃ!!」


 そりゃ熱いだろう。


「あちっ! あちっ! あちい!!」


 悲鳴を上げて藻掻く佐藤君だが、さすがに熱湯に飛び込むわけにも行かず誰も助けられない。


「ど、どうしたら!?」


 セレーネが源泉の縁ギリギリまで身を乗り出す。


「そこは熱湯だから、入れないって!」


 慌てて俺はセレーネの手を掴んだ。


 バシャバシャと暴れていた佐藤君の動きが止まる。


「そんな……」


 悲痛な言葉のセレーネ。

 俺にはかける言葉がなかった。


 ばきゃん!


「え?」


 軽い破裂音がしたと思ったら、佐藤君の身体が輝き小さな球体となって物凄い速度で何処かへ飛んでいった。


「バカが、迂闊なことをするから死ぬんだ」


 魔術師が吐き捨てるように呟く。


「え、今のって佐藤君は死んだんじゃなくて」


「ええ、わたくしも初めて見ました」


 そうか。勇者だから死ぬことはないんだっけ。

 つまりあれはポータルに飛んでいったってことか。


「なんだ……そういうことか」


「だ、大事にならなくて良かったです」


 ギャグシーンから一気にシリアスに入るかと思ったら最終的に何処かへ飛んで行ってしまった。これが何度も復活可能な勇者か、だから死にそうな行動にも躊躇いが一切ないのか。


「はぁ……盾がいなくなったのなら仕方がない」


 魔術師はくるりときびすを返すと、そのまま戻っていく。


「なんというか……ドライな反応だな」


 仲間が死んだというのに……いや、これが死なないってことなのかもしれない。


「勇者様、わたくしたちはどういたしましょう」


「そ、どうするか……」


 勇者の一人が死に……いやポータルに戻ったのか。そしてもう一人も本陣に戻っていった。


「そもそも俺達ってどうしてここまで来ちゃったんだろうな」


「今それを仰いますか? 一応、お二人の勇者を止めるつもりでしたけど」


 まあそうだよね。


「わたくしはこのまま紋様族の方々と話し合いが出来ればと思っています」


「確かにそれが出来るといいんだけど」


 とはいえ、ここを迂回する方法はぱっと見なさそうだし。この危険な間欠泉が吹き出す道と通らないといけない。


「うーん……あ、そうだ“サーチ”間欠泉」


 ARみたいに赤い点で場所を示された。


 反応、大小含めて20くらい。

 その内道沿いで危険なのは8。


「そして“ディテクト”間欠泉の間隔」


 吹き出すタイミングを調べてみる。

 すると次に出る間欠泉の予測が表示される。


「ふむふむ……これなら後10分くらい待てば、抜けられそうだな」


「分かるのですか?」


「こういうのだけは得意だからね」


 対象を探すのがサーチで、対象を調べるのがディテクト。

 こういう使い方も出来たりするのだよ。



 そして10分後。


「よしセレーネ、今だ!」


「はいっ!」


 先ほど佐藤君が吹っ飛んだのを見ていた彼女だが、全く俺を疑っていないのか躊躇いなく一緒に走り出す。

 何とか紋様族達がいた場所まで辿り着くと、後ろでぶしゅーっと間欠泉が盛大に吹き出した。


「あぶねぇ……、凄えデカいのが吹き出してる」


「危なかったですね……」


「よし先に行こう」

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