結局進軍<Ⅱ>

「“サーチ”!」


 見えている段階でサーチをかけてみるがやはり反応がない。まじかよ……。

 もしかして紋様に何かしらの仕掛けとかがあるのか?


 そして紋様族はこの状況でもこちらに一切物理的な攻撃を加える様子はない。


「どうやら、あの勇者二人じゃ彼ら相手になっていないな」


「そ、そのようですね」


 砂埃が晴れてくると、魔術師は腰砕けになって尻餅をついていて佐藤君は煙相手にずっと剣を振り回していた。


「くそっ!」


 見えてきたところで自分達がどれほど間抜けだったかが分かったのか。恥ずかしそうに悔しがっていた。


「こ、この野郎!」


 佐藤君は岩の上から見ていた紋様族に怒声を上げ剣を両手で持って大きき振りかぶった。


「何をするつもりなんだ?」


「あれは……遠くに剣撃を飛ばす攻撃です!」


 なにそれ……伝説の武器ってことか。


「避けろ!!」


 俺はありったけの大声を出した。

 その声が聞こえたのか。紋様族は慌てて奥に逃げ出す。


「おらあ!」


 ばぎゃっ!!


 剣を上段から大ぶりに振り下ろすと、それまで紋様族が居た岩が激しい音を立てて割れた。


「うわっ!? なんじゃあれは……」


「あれが勇者の力なんだそうです」


 凄えな、おい……。

 あんなのを最初から持っているのかよ。


「俺もああいうの欲しかったなぁ……」


 いや、もらったのは何処かで落としたんだけどね。


「待ちやがれっ!!」


 怒りが治まらない佐藤君は再度彼らを追跡する。


「ああもう!」


 佐藤君を止める方法はないので、とにかく追いかけるしかなかった。

 俺とセレーネの後ろに、魔術師が黙って付いてくる。


 佐藤君は疲れを知らないのか思いの外タフで見失わないのに苦労する。

 徐々に、草木が少なくなり岩と石と砂だけの大地へと変わっていく。


「なんでしょう……この腐ったような臭いは」


 卵の腐ったような臭いがする。

 この臭い、温泉とかで……。


「この臭いは硫黄かな……ってことはこの辺りに火山があるの?」


「森の奥に、炎の魔神が住む山があるって聞いたことがあります」


 それはつまり火山の比喩表現ってことか。

 火山の近くだから魔物とかもあんまりいないのかもしれない。


「あれ?」


 いつの間にか佐藤君を見失い脚を止める。

 だが、魔術師の彼は何も言わずに俺達を置いていく。


「ちょ!」


 何かしらの方法で佐藤君の位置が分かっているのだろうか。

 とりあえず魔術師に付いていくことにする。



 追いかけている間に、煙のようなものが発生し始めた。

 これはもしかして……。


「“ディテクト”周辺の空気環境」


【地熱により温められた水や蒸気が噴き出している】


 なるほど煙のようなものは湯煙か。

 足元をよく見るとそこかしこの岩の隙間から液体が漏れているのが確認出来た。


「温泉かぁ……入れるのかな」


 などと思っていたら魔術師の脚が止まる。

 左には切り立ったような岩の谷がそびえ立ち、右には大きな泉があった。


 溢れ出さす湯煙に泉というより天然の温泉だと分かった。色は綺麗な青色だが泡が出ている。

 そのせいか、この辺りはそれまでの寒さが嘘のように暖かかった。


「これって沸騰しているのか……」


「凄く熱そうですね」


 泉の向こう側に紋様族と思われる小さな人達がこちらを見ているのに気がつく。


 ぶしゅー!


 なんで佐藤君は脚を止めたんだと思った矢先、大きな音がした。

 岩の谷と天然温泉のわずかな隙間のような道から激しく蒸気が吹き出してきた。


「間欠泉てやつか」


「なんですかそれ」


「説明が難しいな。とりあえず物凄い熱いお湯が噴き出しているってこと、迂闊に近づくと火傷するから気をつけて」


「わっ、分かりました」


 なるほどそれで脚を止めていたんだな。


 ぶしゅー!


 間欠泉は色々なところから溢れ出していた。まさに天然のトラップだった。

 もしかしてこれを全部避けて彼らは向こうに行ったのか?


 なるほど……これは一筋縄ではいきそうにない相手だな。


「“サン・レイ”!」


 などと感心している横で、魔術師がいきなり魔法を唱えた。

 危ないと叫ぶ間もなく一本の閃光が湯煙の向こうに居る紋様族達に奔っていく。


「ふっ……」


 魔術師が不敵な笑みを浮かべた。先ほど尻餅をついてビビっていたヤツとは思えないな。

 その閃光はレーザーポインターを当てたように対岸の紋様族の身体に点が光る。

 それに紋様族達は驚いて慌てて逃げ出していく。


「あれ……今の魔法って一体?」


「なっ、どういうことだ!?」


 使った本人が驚いていた。


「ん……ああ、そういうことか」


「なんだ!?」


「今の魔法ってレーザーみたいなものだろ。だから大気中では減衰しやすいし、これだけの湯煙だもの向こうに届く前に破壊力を失ったんだな」


 どこまで本当か分からないけど。多分それだと思われる。


「な!? ふざけている! ゲームなんだから、そんな現象は必要ないだろ!」


 なんか魔術師君が急に切れ始めた。


「くそっ! 彼奴ら魔法を使えるから経験値高そうなのに!」


 悔しそうに地団駄を踏んでいる佐藤君。


「おい、真空斬りならいけるだろ!」


「さっき使ったばかりでクールタイム中だ!」


「ちっ……、使えない」


「なんだと!」


 なんか勇者二人でケンカが始まってしまう。


「こんなところでケンカしてもしょうがないだろ。一旦戻って体制を……」


「ふざけんな! 経験値の高いレアモンスター目の前にして帰られるか!」


 こいつはどこまでいっても経験値しかないのか。

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