再訪、女神の間

再訪、女神の間

 セレーネと共に教会へ着くと、この前と同じく礼拝堂で女神像の前で祈りのポーズを取る。


(女神様……)


「……どうなさいましたか、賢き勇者よ」


 先日と同じく、女神の声が聞こえた。

 目を開けるとまたあの何処までも広がっている空間にいた。

 身体は地上のまま、意識だけがこの場所に来ているらしい。


 目の前には前回同様に綺麗な女性が立っていた。


「勇者よ」


「あ、そういうのはいいから聞いているんだろ。おっさん!」


「……な、何か用か」


 女神がかき消えツルツル肌のリトルグレイおっさんが出て来た。


「なにが何か用だよ。あんた、やっただろ」


「な、なんのことだ……」


 たった一言で動揺しているし。


「どうやら、またやってくれたみたいだな」


「ぐっ、失敗したのか……。彼奴ら後で処分しておかないと……」


 いつも通り表情は一切変えず、あっさり自白するおっさんだった。


「やっぱりな」


「ち、違う! 今のは言葉のあやだ」


「うるせえ、誤魔化したって無駄だ」


「ぐ……、ぬ、ぬぐ……」


 この宇宙人は本当に嘘をつくのが下手だな。

 直ぐに声で動揺しているのがバレてしまう。


「わ、悪かった……頼むから見逃してくれ。もうシステムの復旧は最終段階に入っていて、あと少しで復旧する。もしそうなったら余計なことは出来なくなる」


「なんだそれはえらく虫のいい話をするんだな。俺はあんたに殺されかかったのに、それを許せるって思えるのか?」


「そ、それは……」


「それに俺だけを狙ったのならともかく砦の兵士や村人、それに神様が選んだ聖女様まで下手をしたら死んでいたかもしれないんだぞ」


「な!? ……聖女だと、まさかお前の近くに聖人種が居るのか!?」


「聖人種っていうのか。今は俺と共に行動をしている」


「なんだとっ!?」


 おっさんは頭を抱えて今までで一番驚いた声を上げた。


「一体どれだけの確率で……、いやそれとも何かが起きているのか?」


 なんだか1人でぶつぶつと言い始めた。

 本当にロボットなのかと疑うほど、仕草は人間そのものだった。


「まさか……こいつの仕業なのか? こちらの知らない機能がまだあるのか……」


 おっさんが上に顔を上げて独り言を続ける。

 もしかして女神のシステムのことを言っているのか?


 女神AIとセレーネの間に何か秘密でもあるのだろうか。


「おいっ! 無視をするなよ」


「あ、いや……少し別件で気になることがあってな」


「それで、どうやって手打ちにするつもりだよ」


 俺は何も気付いていないふりをして話を続ける。


「そ、それではお前が職業を決めたときに、こちら特別な武具を用意することでどうだ?」


「本当かよ」


「もちろんだ。必ず用意するから、では話は終わりだ」


「おいっ、まだ話が……」


 宇宙人のおっさんは慌てるように話を終わらせると俺の意識は教会の礼拝堂に戻されていた。


「くそっ……」


 あのおっさん絶対に余計なことを考えているよな。

 俺はなんて迂闊だったんだ……まさかセレーネに迷惑が掛かることになるとは。


 もう少し追い込めばもっと情報を引き出せそうだったんだが。

 どうすればいいんだ。


『……勇者よ。わたしのバックアップを転送してください』


「え!?」


 一瞬女神の声が聞こえた。


「今のは、どういう意味なんだ!?」


 だが女神から返答はなかった。

 バックアップってどういう意味なんだ。せめてもう少しちゃんとした説明をしろってんだ!


「……はぁ、全くもう」


「勇者様? お話の方は終わったのでしょうか」


 俺が終わったことに気付いたのか、セレーネが奥の部屋から出て来た。


「あ、うん、ごめん大きな声出して」


 女神のあの声、初めて聞いた感じがした。

 多分だが、あれが本当の女神なんじゃないだろうか。


 とにかく女神のバックアップをどこかに転送すれば……多分、女神が復旧とかするんだろう。

 でも復旧したとして、何がどうなるんだ?


 うーん……、でもおっさんはそれを嫌がっている感じだし、だとしたらバックアップとやらを転送したら、この状況をどうにかしてくれるかもしれない。


「あの……もしかしてまだ女神様とお話中でしょうか?」


「あ、ごめん、ちょっと考えごと」


 俺が黙っていたので不審に思ったセレーネが話しかけてきた。

 そういえばおっさんは、俺が彼女の近くにいることに驚いていたな。


 ……だとすると、女神と聖女は何か繋がりがあるのかもしれない。


「あのさ……聖女になるときに神様から何か特別な贈り物とかあったりした?」


「頂き物ですか。奇跡の力とは別にでしょうか」


 不思議そうな顔をするセレーネだったが、律儀にも色々と考えてくれる。


「あ、うん、例えば魔法のアイテムとかホーリーシンボルとかさ」


「アイテムは特には、ホーリーシンボルは教会からいただいたものですが、これは該当しますか?」


「ごめん、少し違うかも。他にあるかな」


 教会から支給されたものであればそこまで特別とはいえないか。


「他にですか……申し訳ありません。特に思いつきません」


「こっちも余計なことを聞いて済まない」


 彼女は関係ないのか……。

 それとも彼女自身に意味があるのか。

 あったとして、どうすればいいんだよ。


 ぐぅ……。


「あ……」


 少し考えている間にセレーネのお腹が小さく鳴った。


「こ、これはその……、ふ、不謹慎で申し訳ありません」


「いや、確かに腹減ったな」


 宴会では目の前にご馳走があるのに話をばかりでなかなか食べられなかったんだよね。


 それじゃあとセレーネと共に宴会の席に戻った。

 日本と違い、こんな見た目でも平然と酒は勧められてくるが、怪我の方は回復魔法をかけてもらったが見た目は治っていても、内部はまだ完全じゃないと言われたのでそちらは断って飯を食いまくった。


 セレーネのことは気になっているが、今のところ俺の力では調べる方法も見つからないので、ともかく今は回復することに専念をした。


 味は塩味だけの単純なものだったが、それでも粗食続きだったので肉とか凄く上手かった。

 とはいえこの辺ではその塩も結構高価らしいのでご馳走の部類なのだろう。


 そのまま朝を迎え昼も起きたままだったが、日が落ちると共にさすがに宴会もお開きとなると、眠気がピークになった。


「うー……さすがに眠い……」


「そうですね……」


 部屋まで付くと、もう何もせずとにかく眠りたいとベッドに飛び込もうとしたら後ろにセレーネが居た。


「あ、あれ、セレーネ、どうして?」


「え、あ……。そうでした申し訳ありません。間違えました。教会の方に行くんでした……」


 どうやら俺と同じく相当眠いらしく脚が重そうだった。

 いや当たり前か、ずっと隣にいたんだし。


「しょうがない。今なら俺は何処ででも眠れそうだから、セレーネがベッドで寝ていいよ」


「そんなこと出来ませんよ……、それでしたら……」


「……え」

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