そして朝になる

そして朝になる<Ⅰ>

「あ、あれ、なんで、どうしてこうなった?」


 夕方に寝て気がつけば次の日の朝になっていた。まあほぼ二徹みたいな状態だったからな。


 うん、まあそれはいい。それは。


「……なんでセレーネが一緒のベッドで寝てんの?」


 比較的小さなベッドなので、お互い身を寄せていないと落ちてしまう。


「んん……」


 メチャクチャ顔が近いのですが……。

 しかもなんか下着みたいな格好で抱きついているし!


 確か、あまりにも眠くて適当に了承したような憶えがあるような、ないような……。

 いやこうなった以上、今更そこを気にしてもしょうがないか。


 だ、だがどうする?

 ここはやはり彼女を起こさないようにベッドから出るべきか。


「ん、ん……」


 むにゅんっ♪


 おおう……。なんだこのたわわな擬音が出そうな柔らかな感触は。


 女の子凄え……。

 凄く柔らかい。やばい……これはヤバい、思考を奪われるレベルの危険物質だ!


「それでなくても目覚めから最高潮になってるってのに! これに気付かれるのはさすがにまずい」


 やばいけどさすが若い身体だ。こっちの気持ちなどお構いなしに反り返って制御不能に陥ったまま戻る気配もない。


「んん……、あ、勇者様おはようございます……」


「わ!? え、あ、ああ……」


 どうするかで悶えていたら、セレーネを起こしてしまったようだった。


「え……あ、あら……? 寝ている間に抱きついてしまったみたいですね……あの、もしかしてわたくしを起こさないようにしててくれたのですか」


「そ、そういうわけじゃないけど……」


「そこは冗談でもそうだよって仰ってもいいのに」


 そう言いながら恥ずかしそうに離れていく。彼女の温もりが抜けていくのが少しだけ寂しく感じる。


 女の子ってどうしてこう何とも良い匂……。


「じゃなくて臭!?」


「な!? ちょ、勇者様、いくなんでも失礼です!」


「ごめん、でも、ちょっと臭いかも……」


「も、もう……いくらなんでもそんなに……、うわっ、本当に臭いです……」


 セレーネは着ている服の首元を前に出すと自身の臭いを嗅いで驚く。

 ちょ、それ胸の形が見えちゃってますよ!


「あ、あはは、朝から申し訳ありません」


 俺の視線に気付いて、慌てて胸元を正してしまう。


「か、考えてみれば、ずっと風呂らしい風呂に入ってないもんな」


 普段は鼻がおかしくなって気付かないんだろう。

 朝一でちょっと鼻が敏感なのかもしれない。


「勇者様! こうなりましたらお風呂のある街まで行きましょう!」


「え? まじで?」


「はい。わたくしは一刻も早くお風呂に入りたいです。だって臭いって言われましたし、臭いって」


「悪かったって」


 あれ、だったら。


「本当に一緒に行動するの?」


「もう何を仰っているんですか。わたくしと勇者様には大事なことがあるじゃないですか」


「大事なこと?」


「……忘れてしまったのですか」


 俺の言葉に表情が曇るセレーネ。


「え、えーっと、もしかしてキスしたこととかか?」


「え!? それはその……」


「でもあれはさ、ほらその必要だったことだし。責任を取れというのなら俺の出来る範囲で何とかするけどさ……」


「何を仰っているんですか当然ではありませんか!」


「そうなのか。どうやら少しはやまったことをしたな」


「もう、そうやってはぐらかのですね。忘れたとは言わせませんよ、金貨200枚はきっちりと払っていただきますから!」


「あ、ああそっちね。うわぁ……すっかり忘れてた。でもそれって出世払いでもいいって話じゃなかったっけ?」


「はい。ですから勇者様には是非とも早く出世していただかないと」


「え、えー……」


 まじか……なんでこの子って普段は凄く優しくていい子なのに、お金が絡むと人が変わるんだろうか。


「そこまでしてお金が必要なの? 確かに引退するために貯めるって言ってたけど」


「はい。それはもちろんですが、それ以外に教会を運営するにもお金は必要ですので」


「ちょっといいのかよ、神に仕える聖職者がそんな守銭奴みたいな発言をして」


「持たぬ者に求めず持つ者に求める。それがアデル教の考えの一つです」


 人差し指を上に向けて答えるセレーネ。


「なるほどそうくるのか。だから貧しい村人からは求めずに無償で奇跡も使うのか」


「そうなのです」


「でもその考えだったら、俺も持たぬ者になるんじゃないのか?」


 上に向けた人差し指を左右に振りだす。


「勇者様は類い希な能力をお持ちではありませんか」


「持つ者とはお金だけをさした意味ではないのか……」


「さすが勇者様、理解が早いです」


 あのなぁ……。


「いずれにせよ今は無一文だから無理なものは無理だから」


「もちろんそれは承知しております。ですからまずはポータルまで一緒に向かって職業登録を行いましょう」


 確かに全く知らない世界を一人で旅するのはかなり危険である。


「それに勇者様は道中で色々と財産を増やしていきそうな気がしますし」


「何だよその財産を増やしていきそうって」


「しかし勇者様の場合はトラブルの方が多いかもしれませんが……」


「おいおい怖いことを言うなよ。それでなくても結構な借金を背負ってんだし」

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