その後のドガ砦<Ⅱ>

「そうなのでしょうか?」


「いくら魔王軍が神出鬼没だからって、拠点からそこまで遠いのならここを攻める意味はあんまりないもの」


「確かに遠いですが、ここより東は魔物の森ですからここを陥落させて魔物と共に我らの国を攻め立てる可能性もあるかと」


「そういうのをするなら、こんな地味なネクロマンサーを使わないでメチャクチャ強いのを一人送って、この砦を一撃で吹っ飛ばせばいい。そうすれば後は魔物達が好きにするだけだから」


「な、なるほど……」


「後方攪乱の意図があるなら派手にやって後ろからも魔王軍が本気で来るって思わせないと、諸外国も含めて驚かないし警戒しないじゃないか」


「わぁ、勇者様って意外と博識なんですね」


「茶化さないでって。もし魔王軍がこいつに任せたのだとしたら、こんな小さな砦一つ落とすのに手間が掛かりすぎだから、途中で粛正でもされて他の奴が攻めてきたんじゃないかな」


「な!? 我が輩を、ぐ、愚弄……す、する……つもり……か」


「愚弄も何も、むしろ俺が魔王様だったら、しょぼすぎて恥ずかしいからアンタを粛正するって話だよ!」


「な!? なななな!?」


 あ、あれ、本気で動揺している。

 もしかして本当にこの人、魔王軍の配下なのか。


「魔王様や軍は恐怖の対象なんだろ? 末端のあんたがこんな体たらくじゃ怒って当然だろ」


「な、な!?」


 もしかしてこのおっちゃんは本気で援軍が来るとでも思っているのか。


「それでこの人はどうするの。明日には処刑とか」


「ま、まて、待ってくれ! 今は我を生かしておいた方が良い! そうすれば魔王様もお前達に寛大なる処置で滅ぼしたりしないかもしれない」


「いや、むしろ厄介払いでちょうど良いって思うだろ」


「なんだと!?」


「一応捕らえた以上は中央に送る手筈になっています。末端とは言え一応魔王軍らしいですから、拷問……いや尋問で何かしらの情報を聞き出したいでしょうし」


 間違いなく拷問て言ってから訂正したよね。

 となると、痛いんだろうなぁ……まあ自業自得だけど。


「後、ネクロマンサーのおじさんさ」


「な、なんだ?」


「あんたがどれだけ人間嫌いだとしても、扱っているものが扱っているものなんだから衛生面とか最悪だから、一人くらいまともに人間を雇った方が良かったって」


「そ、それは……」


「じゃないと病気になったら薬一つ買いに行けなくなって苦しい思いをするんだよ」


「ぬ、ぬぐぅ……」


「あー! もしかしてこの方が砦を襲ったのは、魔王の命令でもなんでもなくて、ここにある薬を狙っての行動だったのではないでしょうか」


「な!? そ、そ、そ、そ、そ、そ……」


 セレーネの指摘は図星だった様子。


「なるほど、もしそれが本当だとしたら独断となりましょうから、魔王軍の粛正対象として扱われるかもしれません。なにせ魔王軍は名前を騙られることを非常に嫌いますからな」


「な、なななな……」


 まあ、ああいうところって荒くれ者ばかりだろうから規律はしっかりとしておかないといけないし、何よりも面子を最重視するんだよね。


「そこでどうしてここで自分は魔王軍だって言っちゃうかなぁ……言わなければ面倒なことにはならなかったかもしれないのに」


「そ、それは……そ、その……」


 ネクロマンサーのおじさんは、口籠もり全く何を言っているか分からなくなる。

 まあ極論を言えば、この人がどうなろうと俺は全くどうでもいいんだけどね。殺されかけたわけだし。


「あ、そうだ。それともう一つ気になっていることがあるんだけどさ」


「……な、なんだ」


「なんで手持ちで最強のワイトを最初に出さなかったんだ?」


「そ、それは……」


 口籠もるネクロマンサー。都合が悪いのか最初のようにごにょごにょと聞き取れない用にぶつぶつ言い出す。


「それは一体どういうことなのでしょうか?」


 俺の質問の意図が分からないのか砦長が聞いてきた。


「普通の砦攻略なら、最強を温存しておくって戦法も理解出来るけどさ」


 ちらりとネクロマンサーを見る。

 すると視線が怖いのか、顔を背けた。


「このおじさんは病気だったんだから一刻も早く終わらせて薬を手に入れたいはずだから、最初から最強の戦力で臨むべきじゃない?」


 なるほどといった顔のセレーネと砦長。


 一つ気がかりがあった。

 確かに俺が地上に降りる前からドガ砦はこのネクロマンサーに襲撃を受けていたから、宇宙人のおっさんの差し金ではない。

 だが宇宙人のおっさんに会った次の日の夜に突然強力なワイトと共に襲撃してきた。


 少し考えすぎかもしれないが、どうしてもあのおっさんが何かしたかもしれないと思わずにいられない。


「……あのワイトの素体は、我が輩が勝つ方が都合が良いと言う人物から提供されたものだ」


「そうか」


 やはりか……あの野郎。後で教会に行って問い詰めてやる。

 もしそうなら追い込んでやる。


「それにしても病気になってよく二週間も生きてたな」


 おじさんを見る限り、そこまで強そうな身体には見えないしね。


「……ポーションを、飲んだ」


 ポーションを飲んでどうにかなるものなのか。


「ポーションは傷や体力を回復させることが出来ますが病気は治せません」


 セレーネが説明をしてくれる。

 だよな。そんなに都合のいいアイテムじゃないだろうし。


「病気の種類にもよりますが体力は回復しますので、その分延命が可能です」


「なにそれ、ずーっと苦しいってことじゃん」


 ポーションを飲んで体力は回復するが、病気はそのままなので結局辛いまま。

 それを2週間も続けていたとは……結構必死だったんだな。


「まあいいや俺の方は、大体聞いたかな」


「分かりました。わたしの方もこれで報告書は作れると思いますので、お二方は戻っていただいてけっこうです」


 俺とセレーネは牢から離れていく。


「済まないがセレーネ、教会に連れて行ってもらえるかな?」


「構いませんが、どうかなさったのですか」


「少し気になることがあってさ。女神に話しておいた方が良いかと思って」


「なるほど、そういうことなら直ぐにでも向かいましょう」


 セレーネを騙しているわけではないが、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。

 だからって本当のことを話しても信じてはくれないだろうし。


 砦長の方も、問題ないらしいのでさっさと教会に向かうことにした。

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