その後のドガ砦
その後のドガ砦<Ⅰ>
その後、丸一日様子を見たがアンデッドの襲撃はなかった。
セレーネはディテクトイービルという邪悪な意思を感じる魔法を使って周囲数キロにその様な存在はいないことも確認が出来た。
「本来この魔法はせいぜい100m位が限界なのですけどね」
MPに相当余裕が出来たため、様々なことが出来る様になっていた。
その後、砦長が勝利宣言を出すと兵士や村人総出で宴会が始まった。
それまで不安でしょうがなかった村人達は大いにはしゃぎ、主賓として一番良い席にセレーネと共に座らされ、子供から老人に至るまでずっと感謝の言葉を貰い続けた。
悪い気持ちはしなかったが、さすがに全員の相手は少々疲れた。
ちなみにワイトに一撃で吹っ飛ばされた3バカは高性能な鎧のおかげで大きな怪我もなく生きていた。やっぱ甲冑って凄いわ。
「あ、目が覚めたんだ」
宴会は一晩丸々続くらしく、ずっと何かの話ばかりで内容もよく分からない中、さすがに眠くなってきたところで砦長から捕虜となったネクロマンサーが目を覚ましたとのことでセレーネと共に一時離席したのだった。
俺が入っていた牢にぶち込まれてたが、結構な怪我と、病気の悪化で寝たきりで歩くことも困難になって死にそうだった。
これでは尋問するのも拷問するのも裁判に掛けるのも何も出来ないからと仕方なくセレーネが奇跡で病気と怪我を治すことにした。
余程苦しかったのだろう。咳や熱が治まり身体が楽になるとネクロマンサーは感謝をしきりにしていた。
だが病気や怪我が治っても失った体力までは回復しないのでそのまま丸一日寝むりにつき、宴会の最中にやっと目を覚ましたので、とにかくまずは話を聞きたかった。
目が覚めているところを間近で見るのは初めてなので、少し観察してみる。
50代くらいだろうか。ワイトじゃないがえらくガリガリでヒョロッとしている。
頭は禿げ上がり、残った毛は白髪だらけ。
そのくせ目だけはギョロリと大きく何とも不気味だった。
「では、貴様は一体誰なんだ? 何が目的でこのようなことをした?」
砦長が牢越しに尋問を始める。
俺の時と全く同じだな。
ネクロマンサーを含む魔法使いは、詠唱をサポートする杖がないと魔法が使えないので杖さえ奪えばとりあえずは安全である。
こいつは、見るからにひょろガリなので肉弾戦になったら俺でもなんとかなるかもしれない。
「そ、それは……その……、……ぅ……ぃ……」
戦いの時は攻撃的だったが、護衛のアンデッドがいないからか一転して弱腰で、その様相はまさにコミュ障そのもの。
喋っているが、声が小さく口ごもっているので全く聞き取れない。
「おい、貴様! バカにしているのか!」
「ひっ!」
あの夜の強気はどこへやら、砦長の一言に悲鳴を上げて怯えていた。
「わ、我こそは……」
「だからなんだ!」
「……あの砦長、ちょっとの間俺に任せてくれませんか?」
「勇者殿がですか? 分かりました……」
砦長が下がり俺が牢の前に立つと、俺は目線を合わせるように屈み込んだ。
「それでおじさんは何が目的だったの?」
「わ、我こそ……は、魔王軍の末席に名を……」
「魔王軍だと!?」
「ひっ!?」
やっと話し出したところで魔王軍という単語に砦長激しく反応してしまい、またも怯えて話が中断する。
「バカな! 魔王はここからずっと西の大地にいるはずこの様な場所に居るわけがない!」
「ひぃ!」
「砦長、しばらく黙ってください」
「あっ、す、すみません……」
「魔王軍がどうしたのよ?」
「ふっ……バカな奴め! 魔王様は新たな派遣の方法を考えられたのだ!」
「なるほど、で、あんたは魔王軍と何の関係が?」
「我はその魔王派遣軍の末席にスカウトされたのだ!」
「ああ、そうなんだ」
しかし、このおっさんなんで一々偉そうなんだろうな。
確か宇宙人のおっさんが新たな魔王が生まれたって言ってたよね。
うーん、それにしてもこれが末席とは言っていたけどもしかして魔王……結構弱かったりする?
「魔王軍てこんなもんなのか? 国とか滅ぼせるほど凄いんだろ」
「10年ほど前に新たな魔法が誕生してから人間は劣勢に立たされているそうです。とはいえ、わたくし自身魔王軍を見たことはありませんが」
「何分立地的にも魔王の拠点からは遠いですからね。ですが魔王直属の配下は山を丸々一つ吹き飛ばしたと聞いたことがあります」
「まじか?」
砦長が凄い話を言ってきた。
それが本当なら、また凄い奴らが敵になるんだな。
この前倒されたとか言ってたけど10年前じゃねーか。あの野郎共は時間の単位が一々おかしい。
てか勇者達は何をしているんだ? これで人間側が負けたらどうなるんだろうか。
でもこんなコミュ障ネクロマンサーを本当に末席にしたのだろうか。単独で勝手に動いてるみたいだけど。
でも魔王の話のときだけ妙に自信ある感じだから、嘘ではない気もする。
適当に後方を攪乱するのが目的ならそれでもいいのか。
「もし我が輩に何かあれば、きっとお前達は魔王様の報復を受けることだろう!」
「なんだと!?」
「ひぃぃ!?」
「だから……」
砦長はいちいち反応してしまう。俺の言葉に申し訳ないとばかりに黙って少し下がった。
「そもそも魔王様ってのは何処に居るんだよ?」
「ここからだと大陸の反対側、西の彼方だというのが常識です」
セレーネがいつも通り説明をしてくれた。
さすが元貴族で聖職者は世情に明るくて助かる。
「そうなの?」
「ですが魔王軍は空を飛ぶものや空間を転移するものも数多く存在しておりますので、この辺りに出没しても不思議ではありません」
「その通り! ここが遠いからと魔王軍が出ないと思って油断していれば足元を掬われるぞ!」
「ああそうですか……だとしたらアホか。兵士の頭数も足りていないこの砦を堕とせない様な奴に援軍なんて送るかよ」
「な、なんだと!?」
「これってアンタの独断かなんかだろ。こんな離れた場所に魔王軍の軍事的な意図はないだろ」
「ぬぐっ!?」
ネクロマンサーのおじさんは分かりやすいほど動揺した驚きを見せる。
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