お約束<Ⅴ>
「え?」
受け取る前に水晶玉が手から落ちたと思った瞬間。
いきなり横腹に衝撃が走り、身体ごと吹っ飛んだ。
「ぐっ!!」
俺の身体は宙を舞ってそのまま地面に身体毎落ちた。
「ぐはっ!」
何が起こったか把握するのにしばらくの時間を要した。
落ちた衝撃で背中を強く打ち呼吸が一瞬出来ず、セレーネが叫んでいるのが見えるが何を言っているか聞こえない。
今日はとことんこんなんばっかりだな……。でもさすがに今のはかなりキツい……。
「……はぁはぁ!」
何とか呼吸が戻ったが、それと同時に腕と脇腹がずきずきと痛みが走り出す。
『……ワイトよ! この者達を殲滅せよ!』
拡声魔法の声が聞こえる。
くそっ……ネクロマンサーの野郎、もう意識が戻ったのかよ……。
身体の至る所に痛みがあり、思ったように動けない。
「この!」
ワイトと俺との間にセレーネがまたも割って入る。
セレーネは、武器のようなものを持っているが、そんなので何とかなるのか?
「偉大なる大地の女神よ! 邪悪な意思から身を守る盾となれ……“バリア”!
ワイトが前に進もうとするとそこに見えない障壁があるらしく、何度も追突を繰り返す。
それに怒ったのか、腕を拡げてその何もない空間を殴り始めた。
「慈悲深き対置の女神よ! 邪悪な魂を鎮めるために我に力を与えたまえ……“ホーリーウェポン”!」
その間セレーネは更に呪文を唱え、いつの間にか手に持っていた武器が淡く光り始める。
「勇者様! 大丈夫ですか!?」
俺に背を向けたまま、頭だけをこちらに向けて話しかけてくる。
「ああ、何とか生きてる……だけど痛みで動けないから気にせず逃げてくれ」
「そんなこと出来ないって何度も言っているじゃないですか」
「そうだけど、今ばかりは……多分折れてる」
「でしたら今すぐ回復を……あっ、そうでした今し方のバリアを重ねがけしたのでMPがもうなくなって……」
「気にしなくていい。その魔法がなければヤバかっただろうし」
とはいっても……ジリ貧であることに変わりはない。
くそ……、それにしても……どうすれば、どうすればいい……。
俺はともかく、彼女だけでも助かる方法は……何かないか。
「うわぁ!?」
兵士達の悲鳴が聞こえる。
どうしたんだと声の方を見ると、彼らは骸骨と対峙していた。
しまったな……。まだ隠し持っていたのかよ。
ネクロマンサーを直ぐに取り押さえるもしくは倒すのは無理になった。
今はとにかく目の前のワイトだ……。
こいつをどうすれば退けられる?
彼女のMPを回復させれば……それでもワイトは倒せない。
MP、MP、MP……そういえば、バリアの重ねがけがどうとかって言ってたな。
「重ねがけってターンアンデッドとかも強くなるのか?」
「消費を倍にすればその分強くなりますけど、どちらにしてもいまのわたくしではMPが足りません!」
そうか……それなら一つだけ方法が……あるかもしれない。
あのときは警告が怖くてNOにしたが……。
「あれを使えばいけるかもしれない」
でも、あれってどうやればあのダイヤログが出るんだ?
あのときは牢にいて……。
「勇者様! バリアがもうもちませんっ!」
セレーネがそう叫ぶ。
俺は彼女の顔を見て思い出す。
そうだ俺を牢から出す為に彼女がキスをしたんだった。
「そうだセレーネ! キスだ!」
「え……、ええーっ!? こ、ここでキスをですか?!」
「そうキスだ!」
「い、いやそんな、いくらピンチで命の危機だからって、そんな死の間際のお願いみたいなことを言わないでください!」
「そうじゃなくて! ……って後ろ!」
ばりんっ!
「え? きゃ!?」
見えないはずの障壁がガラスが割れたときのように崩れ落ちるのが見えた。
ワイトの腕は勢いを止めずにそのままセレーネに攻撃をしてくる。
セレーネは咄嗟に攻撃を受け止めようと構えた。
包帯だらけの腕を仄かに光るメイスに当たるとバチッと電気がスパークしたかのような音を立てる。
ワイトの腕がそれにより吹っ飛ばされるが、セレーネの方も反対側に吹っ飛んだ。
「あの野郎、なんつー力だよっ!」
飛んで来たセレーネを俺は寝転びながらも何とか受け止める。
「ぐえ! お、重い……」
だが身長差もあり、セレーネを受け止めきれず俺も一緒になって倒れてしまったので、さすがに苦しい。
「あ、あれ……わっ、も、申し訳ありません」
「き、気にしなくていいよ。……セレーネの方は大丈夫?」
「えっと……はい。わたくしは大丈夫です。ですが状況の方はかなり大丈夫ではないかと」
「その様だ……」
方腕から煙を上げながらワイトがこちらに向かってくる。
「やべえ」
目の前に立つと、無事な方の腕を振り上げ……。
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