お約束<Ⅲ>

「砦長! 俺達のことは気にせず逃げるなり籠城するなりしてくれ!」


「分かりました……ご武運を……」


 話の通りやすい人で助かるな。3バカに爪の垢を煎じて飲ませたいわ。


 ワイトは俺とセレーネに気がつき、先ほどと同じく腕を拡げてこちらに向かってくる。

 マジか……近くで見ると、より恐怖が増す。

 本能的にこれはヤバい相手だと思わされる。


「や、やあ、今日は良い天気ですね!」


 咄嗟に天気の話とかどうなんだよ。しかも夜に何を言っているんだ。


『………………』


 俺の話が聞こえていないのか、それとも呆れたのか、ワイトは黙ってこちらに向かってくる。


「これ多分話が通じていませんね……」


「やっぱそうなりますよねー!!」


 セレーネは俺の前に出ると、手を前に突き出して呪文を唱え始める。


「慈悲深き大地の女神よ! 貴女の聖なる力で哀れな魂を鎮めたまえ!」


 ワイトの足元が輝き始めた。


「“ターンアンデッド”!!」


 それはワイトの身体を閉じ込めるように光の柱となり、動きを止めたのだった。


「おお! すげえ!」


「申し訳ありません……」


「え?」


 だが感心したのも束の間、光の柱はパリンと音を立ててあっさりと崩れ落ちた。


「って、ぎゃー! 失敗なのか! やっぱメチャクチャ強いぃ!」


「勇者様危ないっ!」


「え?」


 間にいたはずのセレーネを超えて、ワイトがいつの間にか俺の目の前にいた。


「しまっ……!」


 ヤバいと身体が逃げだそうとするが、ミイラの様な包帯でぐるぐる巻きになっている腕が俺の頭を掴んだ。


「うわあぁあ!?」


 俺は完全にやられると、恐怖のあまり変な声が出てしまう。


『今だ! レベルドレインっ!』


 ネクロマンサーのかけ声と共に今度はワイトの手が光り出す。


「勇者様!!」


 セレーネの悲鳴が聞こえる。


 ああ……終わった。俺の人生もここで終わりか……。

 騙されてとはいえ新天地に来たばかりだったのに。


 俺は諦めて目を瞑る。


「勇者様ー!」


 ごめんよ。セレーネ、君だけでも何とかこの場を逃げ切って欲しい。


 本当に済まない…………。


 ……………………。


「……え、えっと?」


 だが何時まで経っても痛みも何も起こらない。


「あ、あれ……」


 そっと目を開くがワイトの手は輝いたままだった。

 ちょっと眩しいんだけど。


 今、レベルドレインって言ったよな。


「ああそうか!」


「勇者様!?」


 このワザってつまるところレベルを落とすわけだろ。

 だが、そもそも俺はレベル1のままだった!


 ゲームによってはそれ以下になると死ぬってこともあるが、ここではレベル1以下になることはないらしい。


「いやぁレベル1で良かったぁ……、じゃねーよ!」


『なんてことだ……ま、まさかぁ……。貴様、貴様、貴様ぁ……』


 拡声器の魔法で驚いているのがダダ漏れのネクロマンサー。

 それくらい切っておけよ。


『ならばこれでどうだ! ゆけ! エナジードレイン!!』


 ワイトの手が再度光り出す。


 すると目の前に半透明の何か表示される。

 この前キスしたときのと同じのか?


【警告MPを吸われています】


「まじか!?」


『……ごほごほっ! うぇぇ……そ、そのまま干涸らびて死ぬが良い!』


「ちょ、お、おい!?」


 献血をしたときのように、熱を奪われる感覚に俺は恐怖した。

 さすがにこれはヤバい! だが身体に力が入らず動くに動けない。


「ターンアンデッド!!」


 セレーネは再度ターンアンデッドを掛けているがやはりワイトには効かない。


『ごほぉっ! ひぃひぃ……ば、バカな聖職者めが! 貴様は後だ。仲間が死ぬのをそこで見ているがいい!』


 咳き込みながら勝ち誇ったような声を上げていやがる。

 くそっ、せめてあの野郎に一撃入れたい! だが遠すぎて石を投げても届かないだろう。


「や、やめろぉ!」


 やっぱりだめか……命拾ったと思ったのに。


「あれ?」


 いきなりワイトの光が消えた。

 ワイトの方も驚いたらしく、自分の手の平を確認するように見ている。


『ごほ、ごほぉぅ! な、何をしている。一気にいけぇ!』


 理由はよく分からないが、どうやらドレインが止まってしまったらしい。

 ワイトは俺の頭を再度掴んでくる。


『エナジードレインだ!』


「や、やめろぉ!!」


 一瞬光るが、すぐに消えてしまう。


『あ、あれ? も、もう一度だ!!』


「や、やめ……」


『まだだ! エナジードレイン!』


「やめろって言ってんだろ!」


何度かエナジードレインを試みるが、一瞬だけ光るだけだった。


「さっきからしつこいんだよ! なにわけの分からない攻撃してきてんだよ! するならちゃんとやれや」


『ぐ、ぐぬぬ……』


 ワイトの表情こそ変わらないが、困ったような仕草で自分の手を何度か見た後、一度だけすみませんとばかりに頭を下げた。


「全くもう……」


『え、ええい! ごほぅ……こうなったら、ごほごほっ、物理攻撃を出せ!』


 ワイトは、包帯だらけの両手を威嚇するように拡げながら振り上げ、物理攻撃に切り替えてきた。


「ちょー!?」


 大きいだけあってか振り下ろす動きはさほど速くなく、さらに振り上げて降ろすだけの単調な動き後ろなので下がって避けられた。

 ワイトは同じ動きで攻撃を続けてくる。

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