お約束<Ⅱ>

『わ、分かっているのかぁ、ごほっ! ごほっ! ごほお! はぁはぁ……』


「おいおい咳き込み始めたぞ。普段声を出さない生活をしているのが急に大声出したりするから……」


「もしかしたら、ご病気なのかもしれませんね」


「そっちか、だったら何かの感染症だったりして」


 ネクロマンサーって死体ばかり扱うから、衛生面があんまり良くないんだろうなぁ……。

 そこは俺もよく分かる。忙しくて部屋の片付けや掃除をほとんどしなかったからな、あれでなかなか身体が治らない一端だったような気もするし。


『と、とにかく、わ、我が最高のアンデッド……お前なんかに、ごほっ、ごほっ、負けないからな! ごほごほごほ!』


「おいおい大丈夫かよ。なんか悪化してるみたいなんだけど」


 拡声器でひぃひぃ荒い呼吸まで聞こえてくる始末。


『と、とにかく、我がさ、最高のアンデッド、ワイトのきょ、恐怖を思い知れぇ、ごほごほごほっ!!』


 ……なんか変なネクロマンサーのせいで急にワイトへの恐怖が薄まってきたんだけど。


 なんて脳天気ことを考えている間にワイトはこちらに迫ってくる。

 やはり脚は一切動かず、直立不動のまま前に進んでくる。


「あの動き、やっぱ怖え……」


 目深なフードを被っているので顔は見えないので人間かどうかも分からない。

 霊感とか全くない方の俺だが、あれからは何とも禍々しいものを感じざるをえなかった。


 どうするか……。


「ここはもういっそうのこと逃げるとかはどうだろうか」


「そうですね。逃げ切れるならばそれもいいと思います」


「ですよねー……」


「ふははははっ! 今こそ、我ら3人の力が必要なとき!」


「おう!」


「やらいでか!」


 いつの間にやら外に出でていた3バカがかけ声と共に剣を構え出した。


「前回は想定外の敵の数に後れを取ったが、相手は所詮ゾンビやスケルトンに毛が生えたようなものが一体! 我ら3人の力を持ってすれば恐るるに足らず!」


「相手が単体だと分かって出て来やがったのか?」


「行くぞ!」


 3バカはかけ声と共に走り出していく。


「あ、あの勇者様止めた方が……」


「ごめん、今更止められないわ」


「いまこそ汚名挽回!」


 さすが3バカ、それは汚名挽回は誤用……じゃないんだよなぁ。最近これでもあってるって話なんだよね。

 って、あいつネタとしたら少し狙いすぎじゃないか。

 いや狙っているわけないか。


「いくぞ! トライアングルフォーメーション!」


 この前と同じく逆三角形の陣形を取る。

 この前は馬に乗っていたが今は徒歩、結構遅い。


「うおー!」


 だが3人は一切臆することなくワイトに向かっていく。

 ワイトの方も、敵が来たと分かったのか移動がより速くなった。

 あれは移動っていうしかないよな。走るとは違う気がするし。


「なんだあれ!?」


 ワイトは包帯のようなもので巻かれた腕を拡げる。それは遠くからでも分かるほど異様に長くそして細かった。

 さらに目深に被っていたフードが外れ、仄かに青く光る骸骨の頭が露出した。


「あれって炎なのか……」


「いえ、あれはオーラみたいなものらしいです。あまり長く見ていると魂が奪われると言われています」


「マジで!?」


 3人と骸骨がぶつかり合う距離になり、3バカは雄叫びと共に武器を大きく振りかぶると、ワイトの細く長い腕に当たった。


 がいんっ!


 激しい金属音がしたが、折れそうな細い腕で完全に受け止めると騎士ごと横に振り回すと、そのまま全身甲冑ごと吹っ飛ばしてしまった。


「うわぁ……セリフなしで飛ばされてったよ……」


「ライトン! サレフト! おのれぇ!!」


 唯一飛ばされなかった女騎士は逆上してワイトに飛び込む。


「喰らえ! 我が魂の一撃っ!!」


「おお……結構跳び上がった」


 思いの外高い跳躍に驚かされたが、ワイトはその飛んで来た彼女の脚を掴むとそのまま遠くに放ってしまう。


「ちょっ!? あーれー……………」


「うわっ……さらに飛んでったよ……」


 3人の騎士は、汚名を返上しようとしたが見事数秒で片付けられてしまった。


「って、なんじゃー! なにもできてないじゃないか!!」


「あ、相手が悪かったかと……」


「だからってなんだったんだよ! あいつらは! 相手の強さくらい考えろっての!」


 3バカの実力はさっぱり分からなかったが、全身鎧の巨体を片手で吹っ飛ばすほど凄い力を持っているのだけは分かった。


「あの腕、もしかしたらこの砦の壁とか簡単に破壊出来るんじゃないか」


「それくらいは出来そうですね」


「だよな……仕方がない、ここで全滅するわけにもいかないし出よう」


 意を決して俺は櫓から門の外に飛び出す。

 高さは2mちょっとなので、今の身体ならなんの問題もなく着地が出来た。

 本来の身体だったら確実に脚を痛めてる気がする。


「わたくしも行きます」


 セレーネも同様に飛び降りてきた。


「ちょっと待てって、今回ばかりは無理しなくてもいいだろ。セレーネには他に出来ることがあるだろ」


「勇者様が止められなければ誰が止められましょう。それにわたくしよりも勇者様の方が余程無理しているように見えますよ」


「それは、まあ違いないけど。あんな化け物とちょっと話してくるなんてな」


「わたくしなら少しは役に立ちますし」


「分かった」


 確かに、今俺が止められなかったらどちらにしても砦は陥落するだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る