悪の秘密結社

悪の秘密結社


 ここはとある辺境の国にある打ち棄てられた古城。

 そこには100人ほどの人間がいた。

 ある理由で集まった集団である。


 彼らは一様に全身黒ずくめに白い仮面を被っていた。

 怪しい集団ではあるが、規律はゆるめなのか適当に寛いでいる。

 酒を飲み、踊ったり騒いだり、更に賭け事に興じていた。


「首領様がお越しになったぞ!」


 そこへ、ローブ姿の如何にも魔術師然とした老人が入ってきた。

 後を追うように、少し派手な甲冑姿の屈強な男や、黒い肌の長身の女性などが入ってくる。


 それまで適当に寛いでいた彼らは慌てて一斉に装束を整えるとその場に跪く。


『……皆の者、面を上げよ』


 姿勢を変えずに顔だけを上げる。

 全員が同じ方角に向いているが、そこには首領様と呼ばれる存在はなく声だけが聞こえていた。


「これはこれは大首領様」


『どうやら少々規律が緩んでいるようだな……』


「い、いえ、これはその……」


『まあいい、あまり厳しくしすぎても逆効果になるからな。だが引き締めるときはしっかりとやれ』


「ははっ、重々心得ております。それで此度はどのような御用向きでしょうか」


 既にローブ姿の老人は顔に激しく汗を浮かべていた。


『……ある人物を、亡き者してほしい』


「大首領様の敵であるのならば我ら喜んで命を捧げます」


『うむ、期待している。だが我がやったと決して気取られないようにするのだ』


「はは、我ら秘密結社は決して存在を知られてはならない」


「ならばその任、是非とも私にお任せいただきたい!」


 甲冑を着た巨漢の男が懇願してくる。


『お前は駄目だ目立ちすぎる。もっと秘密裏に動ける奴にしろ』


 甲冑の男はがっくりと肩を落とすが、その後に続いて声を出すものはいなかった。


『揃いも揃って使えない奴らめ』


「も、申し訳ありません。戦いでしたら我ら死ぬまで戦うのですが……」


『まあいい。えーっと……、おい、そこの、そこのお前、そこで今あくびをしたお前だ』


「ええ!? さ、サリのことですか!?」


 最前列以外は全員黒ずくめの装束に仮面を被っているため誰が誰だか分からないはず。

 サリと自身を呼んだ本人は、自分は関係ないとあくびをかみ殺していたら突然指名を受けた。


『え……、あ、そ、そうだ。そこのお前だ。今すぐに用意をしろ』


 声の主の反応からみるに、本当は違う人間を指定していたが思わずサリが反応したので面倒だから訂正せずに任せたと思われたが、だが大首領が決めたことなので誰もが黙って従うのだった。


「え、今すぐにですか?」


『そうだ。必要なものは用意してある。簡単なお使いだ。無事にこなしたら幹部候補に格上げしてやろう』


「マジですか!? わっかりました! お任せください。今すぐに準備して出発致します!」


 全員が未だに跪いている状況で1人、嬉しそうにスキップをしながらその場を後にしていった。


「だ、大首領様、あのようなものでよろしいのでしょうか」


『私が間違った判断をしたと言いたいのか?』


 それまで感情の感じられない声の主のトーンが下がった。


「け、決してその様なことは! よ、余計なこと申しました。ど、どうか平にご容赦を……」


『今の対象は交戦状態にある。だから敵対側が有利になる様にあるものを渡せばいいだけの簡単な仕事だ。問題はあるまい』


「な、なるほど……ははっ、では彼の者にやらせますので」


『後のことは頼むぞ』


「お任せください」


 それまでの重たい空気感が消え、声の主が去って行ったのが分かると、一同は小さくため息をついて跪くのを解くのだった。


「やれやれ……本当にあんなのでいいのだろうか」


 声の主と話をしていたローブの老人は一抹の不安を感じられずにはいられなかった。

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