あれとの再度遭遇<Ⅲ>

「じゃあ、どんな欲望なんだよ」


「同僚に負けたくない。もっと良い地位に就きたい。そういう欲求だ」


「おいおい、めっちゃ欲まみれじゃねーか! つまり俺のミスを知られたくないってだけだろ」


「そ、そういうことだが」


「だったら俺が黙っていればいいんだろ」


「なに? だ、だがそれは……」


「もちろん、アンタが余計なことをすれば今度こそ他の宇宙人にチクるからな」


「わ、分かった。これ以上お前に干渉はしない……」


「本当だろうな?」


「ほ、本当だ。我らは嘘をつけない」


「それ本当かよ。俺は騙されてばかりだが」


「ガイドラインに抵触してはいない」


「なんだよそれは、そっちの勝手なルールじゃねえか」


 能面みたいなロボットだが、感情を持って話す相手を倒すのはやはり気持ち的にあまりしたくはない。


「ああもう、あんたがネタバレしなければ俺だって何も知らずに知らずに転生したーって幸せに暮らしていたのに」


「こちらも、おまえに知られなかったらこんな苦労はしなかった」


「なんだ。やっぱりお互い何も見ていないってだんまりをしているのが最適じゃないか」


「……それは合理的だ」


「だろう? じゃあ俺はあんたが余計なことをしない限り何もしない」


「いいだろう」


「よしじゃあ話は終わったな。ってああそうだ一つ聞きたかったんだけど、俺の身体に何かしたのか?」


「どういうことだ?」


「なんか俺の記憶と大分身体の状態が違って、妙に身体が綺麗なんだが」


「それはおそらく衛生や栄養状態が悪かったからだろう」


「栄養……衛生……? そういうことか」


「分かったようだな」


 おっさんの一言でおおよその見当が付いた。

 肉体を若返らせたのは時間を巻き戻したようなことではなく、彼らの技術で肉体そのものを再構成したとかなのだろう。

 その際肉体には十分な栄養を与えたし、当然衛生状態も完璧だったはず。


 おかげでつるつるの肌にサラサラの髪まで手に入れてしまった。


「何か、気に入らないことでもあるのか?」


「それはないが、昔の自分と大分違って驚いているだけだよ」


「そういうものか」


 それ以外にも、骨格や筋肉にも良い影響が出ているらしく明らかに顔が整っている。

 たまたまかもしれないけどちゃんと育てればある程度そうなるものなのだろうか。


 すげえな宇宙人の技術。

 まあ、自動で翻訳する機能とか組み込めるくらいだしな。アンデッドとまで話が出来るくらいだし。


「って、そうだ。アンデッドって本当に死者なのか?」


「アンデッド? ああ、不死者は機能を停止した生物にナノサイズの人工生命を寄生させて動かしている」


「でも彼らには意思があったぞ」


「あれは対象の脳の一部をコピーしている。その方が生理的な理由で体を動かすのに都合がいいんだ。なじみやすいと言えばいいか」


「なんだそれ」


「脳の状態にもよるが基本的に新しい記憶や重要な記憶ほど残りやすくコピーされやすい」


「悪趣味だな……」


「ちなみに骸骨の方はコピーするべきものが既にないからあれは用意したマクロで動いているに過ぎない」


「マクロと来たか。ならプログラムで行動を書き換えは出来そうだな」


「出来るはずだが、その方法は我らもロストしている」


「うわ、これだけの技術を持っているのにロストテクノロジーなんかあるのかよ。でもなんで俺はゾンビと話が出来てしかも理性的になったんだ」


「なに、話が出来るのか?」


「勇者ならみんな持っているんじゃないのか」


「……どうやら特殊スキルで万能翻訳でも入ってしまったようだな」


「そういう能力だったのかよ。でも今更返さないぞ」


「かまわない。というかスキルだけを引きはがすのは面倒だ。それにそのスキルは一般的なものだから気にする必要はない」


「なんだよ。さほど凄いものじゃないのか」


「しかし……理性的になるのはおそらく仕様として言葉が通じるなんて想定されていないから主記憶を持つコピーされた脳の機能が身体のイニシアチブをとるのだろう」


「つまり本来の持ち主の人格が前に出てくるってことか」


「そうだ。とはいえあくまでもコピーされたものであり、その遺体の記憶の残滓にすぎないがな」


「それでも彼らは話をしたがった。まああんたには人間のそういう気持ちは分かるまい」


 このおっさんに出世欲はあっても、生きようとする欲なんて分からないだろう。

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