あれとの再度遭遇<Ⅱ>
「試しにやってみてもいいかな」
「ええ、構いませんけど……祈りながら心の中で神様を呼んでみてください」
彼女が手を組んで祈る形を見せてくれる。
言われたとおりに真似て祈ってみる。
そして女神を呼ぶ。
(女神様……女神様……)
『……どうなさいましたか、賢き勇者よ』
「はい?」
声がして目を開けるとそこは何処までも広がっている空間だった。
空は夜空のように漆黒で星々が明るく輝いている。
そして地面は無機質な床が広がっていて星明かりだと白っぽいと思われる。
そして目の前にとても綺麗な女性が一人。
俺が最初に会った人だった。
「また会えてよかったよ」
「勇者よ」
「あ、そういうのはいいんで、悪いんだけど君の上司を呼んでもらえない」
「わたくしに上司などおりません」
「ああそう、じゃあさ上司でも管理人でもなんでも良いから呼んでくれないかな。もしダメだっていうのなら、俺がどんな目に遭ったか他の神様に言うけどいいか?」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
目の前の女神がかき消えた瞬間、そこにはアーモンド状の瞳。小さな身体にツルツルの肌をしたSF好きなら誰でも知っているリトルグレイが現れた。
見た目から想像出来ないがアニメとかでレギュラー取れそうなほど低めの格好良い声だった。
「やっぱり、まだAI女神様は完全に復旧していないみたいだな」
「お、落ち着け、とりあえず話し合おう。一体何が望みだ」
「やってくれたな。おっさん」
焦った声を上げているが、おっさんの表情は一切変わらない。
「あ、あれは……その、じ、事故。そう事故だったんだ」
「へぇ、事故ねぇ……」
「“面倒なのは星に落とすに限る”って言ってなかったか?」
「ぬうっ!? な、なんだ、そんなこと言ったか?」
ツルピカおっさんは表情こそ変わらないが、声はかなり動揺していた。
「……な、なんだ。信じられないというのか?」
「この状況で信じられると思うのか。事故なのに探そうともせず、俺がこうして訪ねてきてもあんたは不在を装っただろ」
「ぬぐ……」
そう、この世界は……いやここは異世界ではなく異星である。
この宇宙人は、地球から俺をアブダクション、つまり誘拐してここに連れてきたのだ。
話によると、俺だけじゃなく結構な数の地球人が拉致されているらしい。
こいつらの目的はいまいち分かっていないが、何故か異世界、それもファンタジーな世界に転生したことになって勇者として魔王を倒す役目を与えている。
だが俺はある事故で最初からネタバレをしてしまった。
俺は女神じゃなく、この宇宙人を見てしまったのだ。
そして女神が人工知能の様な存在であることも知った。
つまりこの世界の魔法だのモンスターだのは、此奴らが作ったシステムである。
「で、では何を要求するつもりだ? 金か、それとも凄い武具とかか?」
「あんたなぁ、最初から盛大にネタバレしてたら、英雄も魔王をあったもんじゃないんだよ」
それに何かの手違いで身体が若返ってしまい、地球に戻ることが出来なくされている。
とはいえ本音としてはあまり戻るつもりはないんだけどね。
「そ、それはその……」
「俺を地上に落としてしまえば適当に野垂れ死ぬと思ったんだろ。残念だったな」
顔の表情が変わらないのに、何故か凄く動揺しているのが分かるほど分かりやすく身体を震わせている。
「詳細は分からないが、事故そのものが誰かにばれると困るんだろ。そして俺は事故の証拠でもある」
「ち、違……」
「星で死ねば問題ないが、それ以外だと都合が悪いから俺を落としたんだろ」
「い、いやだからあれは」
「今更、誤魔化す必要なんてないから」
「う、うぐ……」
「俺としては、地球に戻ってまた社蓄に戻ったり病気で寝込んだりしたくはないから、ここで暮らしていくのはやぶさかではないんだよね」
「そ、そうか!」
「だけど、俺をどこかのタイミングで都合よく始末しようと考えているだろ」
「そ、そ、そ、そんなこと考えてはいない」
「どんだけ動揺しているんだよ。ったく、まんまそのつもりかよ」
「ああくそっ! お前ら地球人とコミュニケーションを取るために感情エミュレーターを導入したのは完全なミスだった! その様なものがなくても我らは完璧だったはずだ!」
このツルピカ宇宙人は正確には生命体ではなくなんでも上位の存在ってのが作ったロボットの一種らしい。
感情はなかったが俺達人間と円滑なコミュニケーションを取るためにそれを導入したってことか。
「やっぱりおっさんみたいのは複数居るんだな」
「な、何故それが分かった!?」
「いや、今自分で我らと複数形だったぞ。どうやらそれぞれの“神”にあんたみたいなのが付いているって感じか」
そんな気はしていた。神が複数いるのは分かったし、それと同じ程度にこの宇宙人もいるってこと。
「そして“上位の存在”ってやつじゃなくて同じ宇宙人の同僚このことを知られたくないんだろ」
「ち、ち、違う!」
「違わないだろ。あんた感情の抑制がちゃんと出来ていないぞ」
「ぐ、ぐぬ……」
「どうせ今の俺相手に嘘も誤魔化しもきかないんだから教えろよ」
「感情エミュレーターのせいだ。この機能を入れてから我らの中で欲望が生まれた」
「欲望って、三大欲求的なものか?」
「我らは寝ることも食事も必要としない。それに生殖機能も存在しない」
ますますロボットじゃないか。
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