やっと今日が終わる

やっと今日が終わる

「それでだね」


「なんでしょうか」


「俺はこの部屋で寝るしかないのかな」


 俺とセレーネは一つの部屋を宛がわれた。

 それはいいのだが、あいにくベッドは一つしかなかった。


「はいそうだと思います。部屋を宛がっていただけるだけでも特別待遇ですし」


「いや待て、英雄扱いするならもう一つくらい部屋を宛がってもばちは当たらないじゃないか」


「むしろ気を遣ってもらったのかと」


「気を遣うってどんなだよ」


「そのわたくしたちが、そういった仲だからと……」


「は!? あー……、そういえばしちゃいましたしね……」


 そういう仲だろうから一緒に寝ろってことか。

 まあ確かにこの砦小っさいし、村人は外のテントで寝ているしな。


 今から新しい部屋を用意してくれと頼むのも……だめだ。もう疲れて動きたくないし、一刻も早く休みたい。


「だったら俺は床で寝るから、セレーネはベッドで眠って」


「そんなのダメです! 今回の功労者にその様な扱いは出来ません」


「それなら、君だって同じく功労者じゃないか」


「勇者様の方が大変だったはずです。それにわたくしよりも年下の男の子を床に寝かせてベッドで寝るなんて出来ません」


 なかなか折れてくれないセレーネ、しかもこういうときだけ年下扱いするのかよ。やれやれ、これで結構な頑固者だな。


「俺は話を聞いただけで、最後にゾンビを倒したのはセレーネじゃないか」


「あれは倒したわけでは……分かりました。ではこうしましょう」


「ちょっと待って、こういうときの流れだと一緒に寝るとかはダメだから、俺だって男なんだ。一つのベッドで女の子と寝るなんて意識して絶対に無理だ」


「は、破廉恥ですよぉ、そんなこと言いません」


「あ、そ、そうなんだ」


「も、もう勇者様、まだ出会ってから一日しか経っていないのに急ぎすぎです。それに今日はさすがにわたくしも眠いので……」


「そ、それもそうだよな」


 ええと、それってことは、ある程度経ったら構わないってことなのか。


「わたくしの方は、教会に戻ってそちらで眠りますと言おうとしただけです」


「え……ああ、そうか」


「昼間なら無理に砦で眠る必要もありませんし」


「あ、そ、そう、そうだよね……。あ、あはは、早とちりしてごめん」


「いえ、そうやってわたくしのことを一人の女と見てくれるのはちょっとだけ嬉しいです」


「そうなの?」


「冗談です。それではお休みなさい」


「あ、ああ、お休み」


 そう言ってセレーネは部屋から出て教会に戻っていった。

 なんだ、からかわれただけか。


「まあ、そりゃそうだよな。あれだけの美人なんだ、男なんて引く手あまただろうしな」


 本当は教会から戻ってきたのに再度教会に行かせるのに少々悪い気はしたが、それ以上に疲れていたのでつい甘えてしまった。


「ふわぁぁ……。寝よう」


 回らない頭の中でベッドに入り込む。

 やはり、地球の布団と比べると段違いだな……。

 全体的にゴワゴワしてあまり寝心地が良いとは言えない。


 でもこれ、あの子が使っているベッドなんだよな。

 なんとなく、仄かに彼女の匂いがする……気がする。

 ヤバい。さすがに意識し始めてきた。


「勘弁してくれ。こんなの眠れるわけが……ぐー……」


 意識したがそれ以上に疲れていた俺は、あっという間に意識が落ちてしまった。

 どうやら今は色気よりも眠気でした。


「ぐぅ……すか……ぴー……」

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