目を覚ますと昼でした

目を覚ますと昼でした<Ⅰ>

 ヤバい……凄くよく寝た……。

 目を覚ますと太陽は高い位置にある。っぽい。


 本当によく寝た。全く途中起きることもなかった。

 だが一切疲れが残っていない。


 なにこれ、もしかしてセレーネが回復魔法でも使ったのか?

 いや違うか。これが10代の身体か! 肩も腰も全く痛くない。


 しかも、あっちも元気になってる……若い身体って凄え! 凄すぎる!!


「しかし凄い一日だったな」


 宇宙から地上に落とされて、まだ一日しか経っていないのにアンデッドに襲われて、牢にぶち込まれるし、そして一晩中ゾンビと話をしたし。

 そ、それに可愛い女の子と、キスもしちゃったけどさ……。


「ふぅ……本当に一日で色々とありすぎたな」


 こんこんっ。

 ノックする音がしてこちらが答えなくても扉が開いた。


「勇者様、ゆっくり眠れましたか」


 セレーネが顔だけ出してき話しかけてきた。


「ああ、おかげさまでぐっすりだったよ」


「あ、起きてらっしゃったのですね。よく眠れたようで良かったです」


 どうやら寝ていると思って様子を伺ったのだろう。

 俺が起きているのが分かると、中に入って来た。


「今晩もアンデッドの襲撃はあるのかな」


「それは分かりません、あれだけの数を一晩で失ったのですからこれで諦める可能性はあります」


「可能性があるだけなのか……」


「はい……昨日のゾンビ達の話を勇者様から聞く限り、最近この近くで氏族同士の戦いがあった場所のようですから素体はいくらでも手に入るでしょうし」


 氏族同士の戦いか。まだ完全に国としてまとまっていないってことか。

 そうなると国としての単位は結構小さそうだな。


「そうなるとなるべく早くポータルってところに行きたかったけど、さすがに今すぐは無理っぽいな」


「もしかして昨晩のようなことを続けるおつもりなのですか」


「しょうがないよ。他の勇者達みたい伝説の武器とか持っていないし、時間はかかるけどあれなら被害がほとんど出ないし」


 他の勇者だったら、ゾンビごとき相手ばったばったと倒していくんだろうけどな。


「わたくしはあの方法はとても良いとは思っていますけど、ですが……ゾンビを作っている存在をどうにかしにないとずっと攻めてくるかもしれません」


「そういえばゾンビって自然発生はしないの? 墓場から出てくるとかさ」


 ふと疑問に思った。


「聞いたことはありません。基本的に死人使いがアンデッドを生成することでしか方法はないと聞かされています」


「そうなんだ。てことはやっぱり何か方法が思いつくか、相手が諦めるまでは続けるしかないかな」


「わたくしも微力ですが出来る限りお手伝い致します。必要な物はなんでも仰ってください」


「え、なんでも?」


「はい。もちろんわたくしに出来ることでよければですが」


「セレーネに出来ること……」


 その言葉に俺は思わず彼女の唇を見てしまう。

 い、いやいやいや、何を考えているんだよ……。


『勇者はモテモテだからな』


 あのおっさんがそう言ってたな。

 だから余計な言葉を思い出すなって!


 いくら何でもまだ出会って一日しか経っていない女の子に何てことを考えるんだ。

 身体が若返ったことで何かとそっちに気持ちが回りやすいのか?


 とにかく今は落ち着け。

 これだけの美人が親しく接してくれるから勘違いしそうになってんだ。

 相手はあくまでもこの事態に対処出来る“勇者”としてしか見ていないんだから。


「あの、どうかなさいました?」


「い、いや、何でもないよ。何でもない」


「ですが、なんだかわたくしのことをずっと見ていらっしゃったようですが……あ、もしかして!?」


「え! い、いやそれは……」


「もしかして顔に何か付いてます!? あわわ……先ほどびっくりするほど美味しいジャムを食べまして、少しはしたない食べ方だったので口か顔に付いていたりします?」


「ずるっ……、い、いやうん大丈夫。全然何も付いてないから」


「本当ですか? 良かったぁ、ずっと付けたままここまで歩いてきたことになってました」


 ううっ、セレーネごめんなさい。

 君はそんなにも可愛らしいことだと思ったのに、俺の方はなんか最低だよ。


 ふう……よし、ジャムなんて聞かされたら俺の方も腹減ってきたかも。

 おいおい、どこまでも欲望に忠実な身体だな。性欲の次は食欲かよ。

 でも、まだそっちの方が健全だからいいか。


「済まない。食事はどうしたらいいだろうか」


「あ、そうですね。では、どなたかに頼んでみましょう」


「いいのかな?」


「昨晩の功労者を邪険にする方はいないと思いますよ」


「だといいんだけど」


 人間なんて、喉元過ぎれば熱さを忘れるってのを散々見てきたからなぁ。

 いやでもさすがに熱が冷めるには早すぎるか。


「じゃあ、俺も一緒に行くよ」


 二人して外に出ると兵士達や話を聞きつけた村人達が集まってきて色々な食べ物を勧めてきたのだった。

 よほどゾンビ達に困らされていたのだろう。


 ゾンビはそれほど器用に動けるものじゃないので砦に籠もっていれば、なんとか大きな被害を出さずいたらしい。

 怪我人は結構出ているが幸いなことに死者は出ていないのが救いだった。


 とはいえ毎晩の襲撃に徐々に怪我人を増やされ、砦の兵士も村人も疲弊していく一方だった。

 そりゃそうだ。あんなリアルスプラッタを毎日見せられたら俺だって気が狂うっての。

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