ここはアンデッド相談所<Ⅱ>

「止めるんだ! ミネディア殿、落ち着かれよ!」


 子分の二人も各々剣をこちらに向けて構える。

 朝になって3人に付けられた鎧の歯形らしきものがくっきりと見えた。


「そうです! これ以上疑うのでしたら、今回は黙っているつもりはありません。彼は一晩中、何時飛びかかってくるか分からないアンデッドを相手に一人で全て対処したのですよ!」


 セレーネが俺の前に庇うように立った。


「聖女様お退きください!」


「退きません!」


「それでは貴女はあのゾンビ共に知性があると仰るのですか」


「わたくしもこの方と出会うまでそう思っておりました」


「私も今は聖女様に賛同します。ミネディア殿、どうか剣をお下げください」


 砦長もセレーネの言葉に賛同した。


「ですが聖女様が騙されている可能性もあるでしょう!」


 なかなか引き下がろうとしない。

 まあ、怪しむのは分からんでもないが、だからといって即処断とかどうなんだよ。


「ならば証拠をご覧に入れましょう。ここに兵士のマクイネルさんはいらっしゃいますか?」


「あ、はい。わたしですが……」


「先ほどのゾンビの中に、貴方の同郷のタイレという人物が居ました。これを家族に渡して欲しいと」


「こ、これは……はい。これはタイレが大事にしていた腕輪です。どうしてこれを?」


「残念ながらゾンビになっていたんです」


「そ、そんな……だから言ったんだ。お前じゃ戦士は無理だって馬鹿野郎……ずっと帰ってこないってお前の両親が言っていたんだぞ……ぐっ……、勇者様、ありがとうございます」


「すみませんがよろしくお願いします」


「はい……次の休暇にでも渡します」


 それから俺は、今回話を聞いたおおよそ40体のゾンビから預かった物品や言葉を、兵士や村人の関係者や血縁者に渡すようにお願いした。

 みんな農民や平民なので高いものはないが、彼らを証明するような思い出の品や言葉をを預かって貰った。

 村人達や砦の兵士達はその話を聞いて、これまた泣きまくっていた。


 俺は彼らにお礼にと様々な食材を貰うのだった。

 どうしようこれ、食べきれるかな。まあ色々と助かったけど。


「ミネディア様、さすがにこれでも勇者殿を疑うのは村全体を疑うことになりますが」


 それでも納得がいかない様子の女騎士に、砦長は冷静に状況を告げた。


「ここまでして我らを騙すのはかなり難しいですぜ」


 3バカは話し合っていた。

 お供の二人はさすがに村人や兵士の話まで作られたものとは思えないようで信じ始めたらしい。


「だがな……」


 だが女騎士だけは未だに納得いかない様子だった。


「あのさ。あんたらゾンビに噛まれたりしたんだろ」


 3人に割って入って話しかける。


「な!? そ、それは……」


「それって歯形だろ? それに血とか変な液体とかの後があるじゃないか」


「ぐっ、相手の数が多少多くて手こずったが、我らのトライアングルフォーメーションは完璧だった」


 本当かよ。

 あんな暗がりに何の策も労さず飛び込むからああなったんだと思うんだけど。


「早く何とかしないと、下手をすると病気になるぞ」


「なんだと!?」


「ゾンビの歯とか爪なんて不衛生で不潔極まりないからな、ちょっとの怪我でもそこから腐る可能性が高いから」


 その話を聞いた瞬間、3人の顔が青ざめていく。


「あ、姐さん!」


「セレーネ戻ろう」


 俺は言うべきことを言ってきびすを返した。


「そうですね」


「た、たた、た、大変申し訳ありませんでした! ですからどうか解毒を!!」


「申し訳ありません。奇跡は使い切ってしまいましたので一度睡眠を取ってからとなります」


「な!?」


「あ、ですが教会に行けば解毒剤を処方しますよ」


「是非お願いしたい!」


「それではお一人10Gでお願いします」


「じゅ、10G!?」


「何分この辺りは辺境で素材も貴重ですので」


「ぬ、ぬぐぅ……、わ、分かりました」


「冗談ですよ」


「な!? お、お人が悪い……」


「ですが解毒の奇跡にも解毒剤にも限りがありますから、今後無茶は控えてください」


「こ、心得ました……」


 一緒に居るとまた言い合いになりそうだからとセレーネは気を利かせてくれて俺を砦に置いて3バカと共に教会に解毒剤を処方しに行くのだった。



「勇者様戻りました!」


 セレーネの使っていた部屋に先に戻り、寝るかどうか悩んだが何度も船を漕ぎながら椅子に座って待っていた。


「……あ、うん、お帰り」


「お疲れみたいですね。先に寝ていらっしゃってもよかったのに」


「それは悪いよ」


「よしこれでアンデッドは全部天に還したし、食料も貰ったし、セレーネの言っていたポータルってとこをを目指してみるか」


「それではわたくしが案内しますね」


「そうなの? それはありがたい」


「はい、少なくとも勇者様の支払いが終わるまではお供しますね」


「あ、そ、そう……お金ね」


 一人で動くよりも当然助かるのだが、どうしても素直に喜べない。


 まあいいか、そこに行けば何かあるだろうし。

 もしかしたら、アンデッドの謎も解明出来るかも知れないしな。

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