まあ分かっていたけどね<Ⅱ>
「だったら今は魔物たちが攻めてくるってわけでもないんだな」
砦の中に入れられるときに兵士の数はそんなにいなかったように見えた。
ゾンビはいたけどはぐれと呼ばれる単体だけらしいし、その程度って感じか。
「はい、数日前まではそうでした」
「え、数日前?」
「そうなのです。少し前からアンデッドの集団から襲撃を受けているのです」
なかなか渋みのある声とともに、コツコツと底の硬い靴音を立てて牢の方に近づいてきた。
「聖女様、この様な出自の分からない者の近くにいると貴女まで卑しくなってしまいます。それにこれでは越権行為になりますからお止めください」
無精髭を生やした如何にも戦士といった風貌でかなり体格の良い男と、先ほど威勢良く突っ込んできて俺を捕縛した女騎兵だった。
「貴方が村の外れで聖女様を拐かしていたという男で間違いないかって……子供ではないか。勇者は幼く見えがちと聞いているが……これほどとは」
身長はセレーネよりも軽く頭一つ分以上高い。
革製だろうか。焦げ茶色の鎧を身に着けている。
「村の外れにはいたけど拐かしてはいないと思う」
「では何が目的でこんな辺境にやってきた。まさか旅などとは言うまい? これより先は魔物が住まう土地なのだぞ」
うーん、そう言われてもなぁ……俺はあのおっさんに宇宙から落とされてきただけなんだが。
そんな言い分が通るわけないか。そもそも理解出来ないだろうし。
「変な嘘をつくと、為にならんぞ」
「そうだ。空から何かが落ちた近くにいたんだ。絶対に怪しい!」
先ほどから鼻息の荒い女性は、よく見ると着ている鎧は全身鎧で光沢からして金属製だろうか。
騎兵ではなく、どうやら騎士のようだった。
「いえ、落ちてきたのはこの方です」
「は!? 人間が空から落ちてくるのですか?」
驚いた顔の砦長はセレーネの方を見るが、彼女の顔はいたって真面目だった。
「その様な戯れ言! 人類の宝たる聖女様を拐かそうなどと不届き千万! これだけでも十分死罪に値するわ! 砦長構わずここで処刑してしまうべきです」
嘘じゃないんだけどね……この女騎士はマジで物騒だな。
「ミネディア殿、少々落ち着いてください」
「こ、これは失礼致しました。つい……」
砦長と呼ばれた男性は小さくため息をついた。どうやら女騎士の扱いに困っている様子。
この人なら少しは話が通じそうだった。
「一応聖女様からは勇者だと聞いていたが……、確かにあまり見ない格好をしているし……これではまるで子供ではありませんか」
俺のことをマジマジと見ながらある程度得心のいった顔をする砦長。
「それに関してはわたくしが保証致します」
「聖女様! ああなんてお可哀想……こんなゴブリンみたいな顔の男の甘言に拐かされるなんて」
それって俺のことなの? 俺ってゴブリン顔なの!? いやゴブリンの顔ってどんななんだよ!
「一体のゾンビから奇襲を受けたところをこの方に助けていただいたのです」
「この子がですか?」
またも砦長は俺の全身を見ると確かに強そうには見えないとばかりにとうとう“子”扱いされてしまった。
「しかも寸鉄の一つを帯びることもなく、ただアンデッドと対話をするだけで無力化したのです」
「な!? それは誠ですか?」
「ええ、本当です」
「それこそ騙されているのです!」
「ミネディア殿、申し訳ありませんが今は聖女様から話を伺っておりますので、静かにしておいていただけないでしょうか」
「あう……も、申し訳ありません」
先ほどから何かと話の腰を折ってくる女騎士にとうとう砦長が注意すると、怒り出すかと思ったら意外と素直にしたがった。
「ふむ……では聖女様、もしそれが本当なら、この子には二つの可能性が出て来ます」
「二つ、ですか」
「一つは天から降りてきた本当の勇者で、そしてもう一つは今回のアンデッド襲撃に関わる重要な人物である可能性です」
「いや待ってくれて、遙か上空から落ちてきたりとか、ゾンビと話をするとか、騙すにしても一体どんな方法なんだよ」
「……確かに、それは私の考えが及ばない。だが聖女様が嘘をつくとは思えないし、特別な加護もあることから魔法などで騙すのはことさら難しい」
この砦長、思った以上に頭が良い人みたいでもしかしたら助かるかも。
よかったよ。こっちの女騎士がトップじゃなくて。
「だが死人を行使するようなおぞましいやつの考えなど知れたものではない」
……そう来るか。
「死人使いは総じて人間嫌いですから、この様に人と接するような方法を取ることはあまり考えられません」
なんか分かる……人付き合いが得意なネクロマンサーって想像が付かないもんな。
サイコ野郎かコミュ障のどっちかってイメージ。
「ですが……」
「ならばこの者を信じられる保証をいただきたい!」
だからお前は少し黙ってろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます