まあ分かっていたけどね

まあ分かっていたけどね<Ⅰ>

「はぁ……、痛ててて……」


 予想通りというかお約束というか、嫌疑をかけてきてこちらの話など全く聞かず当然のように牢に放り込まれてしまった。

 縄でふん縛られ、馬で引かれたので転んで数カ所の擦り傷が出来ていた。


 セレーネが必死になって弁護してはくれたしステータスを見せようともしたのだが、あの3人の騎士は全く聞く耳を持たず、この砦にまで縄で引っ張られてきた。


「だからって牢屋かよ……」


 牢はログハウスのように丸太を組んだものでかなり頑丈そうだ。

 格子の方は鉄製で如何にも頑丈そうな南京錠のようなもので施錠されている。

 挙げ句にゾンビさんからいただいたナイフと硬貨は没収されてしまった。


「ちぇー、また文無しかよ」


 そもそも俺って勇者じゃないのかよ。

 凄え活躍とかして世界中にチヤホヤされるんじゃなかったのかよ。


 地上に落ちてから1時間も経たずにアンデッドに襲われた挙げ句に囚人扱いですよ。


「伝説級の武器とかを持ってないからって言ってたしな」


 はぁ、なんでEASYモードからVERYHARDにならにゃならんのだ。

 そもそも、ここが異世界じゃなくて異星だと知ったのは俺のせいじゃないのにさ。


「まあ、確かに余計なことは言ったけど」


 申し訳程度の小さな窓が陰りはじめ、大分日が落ちてきたのが分かった。


「本当にここは地球じゃないんだよな?」


 全く違和感がないんだけど。


「……それにしても、暇だな」


 何もすることがない。それに腹も減ってきた。

 牢に入れられて何時間くらい経ったんだ?

 腕時計もスマホもないんだよなぁ……、時間てどうやって調べればいいんだ?


「こうなると番兵でもいいから話し相手がほしくなってくるな」


 番兵どころか他の牢に人の気配すら感じない。


「はぁ……」


 そして出るのは重めのため息のみ。


 がしゃんっ。


「ん、誰か来る?」


 牢の外にある扉の鍵が開く音がした。

 そしてこちらに向かう足音が聞こえる。

 うっすらとした人影のシルエットが見えてくる。


 ど、どうしよう……。ご、拷問とかか? それとも処刑か!?

 か、隠れるか? ってどこにだよ!


「……勇者様」


「え?」


 だが足音の主は聞き覚えのある声で話しかけてきた。

 牢越しに覗き込んできたのはセレーネだった。


「わたくしの力が及ばずこんな不便を強いて申し訳ありません」


 彼女は祈るように手を組んで申し訳なさそうにしていた。


「君は何も悪くないから気にしなくていいよ」


 実際彼女は俺の誤解を解こうとしてくれていたもんな。

 出会ったときは気付かなかったけど、牢の柵越しでお互いに向かい合うと改めて自分の背丈の低さに気付いた。


「どうかなさいましたか?」


「いや、自分の背丈の小ささを改めて実感していたところ」


「大丈夫ですよ。きっと勇者様はこれからぐぐっと伸びると思います」


 確かに小学校の高学年からほとんど変わらず、中学3年辺りから一気に伸びた記憶がある。

 ということは俺は今のところ中3よりも若いってことか。


「あの、このようなモノしかありませんが……」


 少し考えていたところに、そう言ってセレーネが手に持ったものを差し出してくれた。

 お盆のようなものに、おそらくパンと思われるモノと深めのお皿に変な色の液体が入っていた。


「お、おおう……うん、助かるよ」


 それでも空腹だった俺は慌ててそれを受け取る。

 パンらしきそれを手に取ると石みたいに堅く、そしてスープは土みたいな色をしていてスプーンでかき混ぜるが具らしきものはほとんどなかった。


「お口に合いませんか」


「いや、俺の住んでたところではあまり見たことのないモノだからさ」


「申し訳ありません。確かに見た目はあまりよくないですが味の方は美味しいと思います」


「そうなんだ」


 とりあえずパンを噛んでみる。

 めちゃくちゃ固い……なんだこれ、せんべいかよ。

 いや、どちらかというと湿気ているみたいに固いんだ。全然歯が入らない。


 そしてスープの方は見た目の割に味は薄いが、確かに変な味はしない。


 なるほど確かに、食べられないものではない。

 でももし身体に合わなくてお腹壊したりしたら……いやだめだもう腹減った……。


 それにせっかくセレーネが持ってきてくれたんだし、それにこの先いつ食べられるか分からないから……うんそうだな。食べてしまおう。


 パンを噛みちぎり、そこにスープを流し込む。

 口の中でスープに浸されたパンが柔らかくなる。

 これなら幾分か食べやすくなったな。


 そのままそれを繰り返し、一気に食べ終える。


「ごちそうさま、ふう……助かったよ」


「この程度のことしか出来なくて申し訳ありません」


 この子はどうしてこんなに優しくしてくれるのか。

 そういえば先ほど彼女は周りから聖女と呼ばれていたな。あの騎兵達は俺が近くにいたことを凄く咎めていたし。


「あのさ、セレーネって貴族のご令嬢とかお姫様とかなの?」


「はい? そんな恐れ多いですよ。わたくしは普通の教会に属する平民ですよ」


 彼女は謙遜したが先ほど自分で神に仕えているって言っていたけど要するに聖職者ってことだよな。そういう存在はとても大事にされる世界ってことなのか?


 まあ回復魔法とかが使えるんだから少しくらい敬われていても不思議ではない。

 どっちにしても本人の様子からしてあまり余計なことを聞かないほうがよさそうだ。


「あとさ、ここってお城なの?」


「ここはドガと呼ばれる砦です」


「砦なのか。ってことは国境か前線とかかな」


「同じような感じですが、どちらかというと辺境になります。コレより東は未開の森で魔物や亜人達の国などがあるそうです」


 魔物に亜人て、こりゃまたファンタジー定番の単語が出てきたな。


「10年以上前に魔物たちの大規模な攻勢があって、そのときに防衛拠点として建設されたがこの砦です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る